Saturday, May 17, 2025

風を食む町の火――小川町バイオガスキャラバンの記憶(2003年)

風を食む町の火――小川町バイオガスキャラバンの記憶(2003年)

2003年、循環型社会への転換を掲げた日本で、埼玉県小川町は静かに熱を帯びていた。市民団体が始めた「バイオガスキャラバン」は、畜ふんからメタンガスを生成し、家庭用プロパンに代替する実験的な挑戦だった。高価な機械も補助金もなく、手作りの発酵装置を積んだ軽トラックが各地を巡る。この旅する装置は、技術ではなく思想を伝える装置であり、町から町へと環境への問いを運ぶ炎だった。有機農業の土壌が生んだこの運動は、「誰かがやってくれる」のではなく、「自分たちが作り出す」エネルギーへの回帰だった。制度や産業に頼らずとも、暮らしの中から熱を生み出す――その日常の詩こそが、エコロジーという名の原風景なのかもしれない。

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