揺らぐ女神像―山田五十鈴を巡る光と影(1952年)
山田五十鈴(1917〜2012)は、昭和から平成にかけて日本映画の核心を担った女優であり、戦前と戦後をつなぐ象徴的存在であった。1930年に日活に入り、溝口健二や伊藤大輔らの作品で培った演技力は、感情を抑えながらも内に強い情熱を秘めた独自のものだった。戦後の混乱期、倫理や芸術の価値が揺らぐ中で、彼女は「清純」でも「肉体派」でもない複雑な女性像を体現した。1952年の『箱根風雲録』では、時代の矛盾と人間の誇りを背負う女性を演じ、ブルーリボン主演女優賞を受賞。抑制と爆発を自在に往来する演技は、戦前の理想像からこぼれ落ちた「人間の影」を映し出した。民主化とアメリカ文化の流入が進む中、山田は欲望や葛藤を抱く女性像を通して新時代のリアリズムを提示した。完璧ではないが真実に近い女優と�
�て、彼女は戦後の日本人に「生きること」と「女性であること」を問い続けたのである。
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