Monday, September 15, 2025

京マチ子 ― 国際派女優が映した昭和の光と影(1924~2019)

京マチ子 ― 国際派女優が映した昭和の光と影(1924~2019)

京マチ子は戦後日本映画の黄金期を象徴する女優であり、その容姿と演技は国内外で高く評価された。宝塚出身ではなく、踊り子として活動していたところをスカウトされ、映画界に進んだ。豊満で曲線的な体躯、切れ長で鋭い眼差し、妖艶さを漂わせる唇は、当時の日本女優の中でも際立った個性であり、エキゾチックな雰囲気と日本的な情念を併せ持っていた。

1950年、黒澤明監督「羅生門」で世界の注目を浴びた。ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞し、日本映画が国際的に評価される契機となった。その後も溝口健二「赤線地帯」、吉村公三郎「偽れる盛装」、川島雄三「夜の蝶」などで男を惑わす魔性の女を演じ、戦後の混乱とモラルの揺らぎを体現した。一方で、小津安二郎「浮草」や市川崑「婚期」では耐える妻や寛容な女性を演じ、観客に深い共感を呼び起こした。

当時、日本映画界は急速に復興し、海外映画祭への進出を図っていた。原節子が清楚な理想像で国際性を帯びたのに対し、京マチ子は肉感的で生々しい人間性を提示し、西洋的な観客にも強烈な印象を残した。同世代の高峰秀子が庶民性を基盤に演技の幅を広げたのに比べ、京は常に「女の業」や「性」を演じる存在として位置づけられ、時に自らの内面との乖離に苦しんだと伝えられる。

しかし、その葛藤を抱えながらも「羅生門」や「赤線地帯」で見せた演技は、日本映画が単なる娯楽から世界的芸術へと飛躍する一助となった。華やかなスターとしてだけでなく、戦後日本の国際化を象徴する存在として、京マチ子の功績は今なお輝きを失わない。

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