郷愁の声 ― 霧島昇と「誰か故郷を想わざる」 1930年代～1960年代

郷愁の声 ― 霧島昇と「誰か故郷を想わざる」 1930年代～1960年代

霧島昇は大正2年に生まれ、戦前から戦中にかけて古関裕而作品を数多く歌い、日本人の心に寄り添った歌声で広く愛された歌手である。代表作「誰か故郷を想わざる」は昭和15年に発表され、中国戦線に赴いた兵士や家族の思いを歌い上げ、戦意高揚一辺倒の軍歌とは異なる抒情性で特異な存在となった。彼は「暁に祈る」「若鷲の歌」などの軍歌も歌ったが、温かく柔らかな声質が兵士や庶民の郷愁を代弁し、慰めと支えを与えた。戦後の日本社会では復興とともに新しい流行歌が台頭し、霧島の唱法は古風とされ藤山一郎や岡晴夫らが前面に立ったが、彼の歌声は戦中世代にとって忘れがたい響きであり、故郷や家族を想う心情を刻んだ存在として記憶された。同時代に藤山一郎が「青い山脈」で明朗な青春を、岡晴夫が庶民的明
るさで復興を象徴したのに対し、霧島は戦中の影と郷愁を歌声に刻んだ。彼の芸歴は日本歌謡史における「戦時と郷愁」の象徴であり、その歌声は時代を超え普遍的な感情を呼び起こす力を持ち続けている。