文壇・作家仲間の会話 ― 銀座「まり花」と1970年代文士社会
1970年代の文壇は、依然として「酒場」と「賭け事」を媒介にした交流が文化の中心にありました。特に銀座や新宿のバーは、作家・編集者・批評家が入り混じる社交の場であり、そこから雑誌連載や出版企画が生まれることもしばしばでした。銀座の酒場「まり花」では、新潮社や角川書店の関係者、そして吉行淳之介、丸谷才一、阿佐田哲也といった文壇の顔役が集い、言葉のやり取りを楽しんでいました。
背景には角川書店が文壇に大きな影響力を及ぼし始めた時代状況がありました。角川春樹が仕掛けた「文士麻雀大会」は、作家を華やかなイベントに巻き込みながら、角川文庫や雑誌への執筆者ネットワークを広げる戦略の一環でした。その余波として「まり花」に作家や編集者が集まり、麻雀の勝敗を肴に笑い合う場面は、出版界の競争と連帯が同時に進行する70年代の空気をよく物語っています。
吉行は戦後派作家として成熟期を迎え、丸谷は批評と小説を横断する知性を発揮し、阿佐田は麻雀小説で大衆的人気を獲得していました。異なるスタイルの作家たちが同じ卓に座り、軽口を交わすこと自体が、文壇がまだ強い共同体意識を持っていた証です。政治や社会の閉塞感が漂う時代にあっても、文士社会は夜の銀座で遊びと交流を通じて結束を保ち、その場から作品や企画が生まれる循環を支えていたのです。
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