廃プラスチック六重の迷宮 ― 中国市場に揺れたリサイクル経済(1990年代末〜2000年代初頭)
廃プラスチック輸出をめぐる中国市場依存の背景には、一九九〇年代末から二〇〇〇年代初頭にかけての国際経済の大きな変動があった。バブル崩壊後の日本は不況に苦しみつつ、容器包装リサイクル法を施行し、本格的に廃棄物の分別と再資源化に取り組み始めた。しかし国内のリサイクル処理は人件費や設備投資が高く、質の悪い廃プラスチックはコストばかりかさみ、利益が出にくかった。
一方で、当時急成長していた中国は製造業の拡大に伴い、安価な再生資源の需要を爆発的に増やしていた。特にプラスチックは家電や玩具、建材などに幅広く利用でき、良質なフレークやペレットは国内価格の数倍で取引された。この国際的な価格差こそが業者にとって大きな利益源となり、正規の容器包装リサイクル協会への委託ルートと、輸出や不正処理ルートが並存する二重経済を形成した。
ここで問題となったのが、六重価格の構造である。自治体や事業者が負担する分別費用、協会への委託料、再商品化事業者の受け取り価格、輸出価格、国内再生市場価格、最終処分費用といった複数の価格が併存し、差額を利用した利益操作が可能になった。表向きはリサイクル率が向上したように見えても、実態は差額詐取や不正輸出が横行し、真面目に法を守る事業者ほど損をする逆転現象が生じたのである。
この構図は国際資源市場の変動と表裏一体であり、日本国内の制度設計の甘さを突いたものでもあった。安定した国内循環を築く前に中国市場への依存が進んだため、制度はしばしば環境保護と経済合理性の間で揺れ動いた。廃プラスチック問題は単なる廃棄物処理の課題にとどまらず、グローバル経済と国内制度の矛盾を映し出す鏡であったといえる。
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