Saturday, September 6, 2025

不法投棄と処分場不足の深刻化 ― 1990年代半ばの時代背景とともに

不法投棄と処分場不足の深刻化 ― 1990年代半ばの時代背景とともに

1990年代半ばの日本は、バブル経済崩壊後の長期不況のさなかにありました。公共投資による景気刺激策として建設工事が全国で進められ、その結果、建設廃材や産業廃棄物が急増しました。しかし一方で、最終処分場の新設は地域住民の強い反対運動に阻まれ、埋立地の逼迫が社会問題化していました。都市近郊では特に処分場不足が深刻で、正規の処理ルートでは対応しきれず、不法投棄が横行する土壌が生まれたのです。

この時期、不法投棄は山林や河川敷、海岸部にまで及び、アスベストや化学物質を含む有害廃棄物も含まれていました。首都圏や近畿圏では、地下水汚染や悪臭、住民の健康被害への不安が高まり、行政への監視強化を求める声が広がりました。しかし当時の廃棄物処理法は規制や罰則が十分でなく、環境犯罪として摘発される件数は限られていたのが実情です。

さらに、1990年代はダイオキシン問題が注目され始めた時期でもあり、焼却施設からの有害物質と不法投棄による土壌・水質汚染が重なって、環境不安が社会全体を覆いました。この背景には「大量消費と使い捨て」を前提とした高度成長期の構造が依然として残っており、循環型社会の制度基盤が未整備であったことが影響しています。

こうした状況は、1997年の「不法投棄防止特別措置法」や2000年の「循環型社会形成推進基本法」につながっていきます。不法投棄問題は、廃棄物行政の転換点を示すとともに、環境犯罪という新しい概念を社会に定着させる契機となったのです。

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