Thursday, September 11, 2025

日本鉄鋼連盟のダイオキシン低減対策 ― 技術的挑戦と1990年代後半の環境規制

日本鉄鋼連盟のダイオキシン低減対策 ― 技術的挑戦と1990年代後半の環境規制

1990年代後半、日本の鉄鋼業界は「環境対応」が避けて通れない課題となっていました。とりわけ注目されたのが、電気炉製鋼で発生するダイオキシンです。鉄スクラップにはしばしばプラスチック被覆の電線や塩化ビニール片が混入しており、これらが高温燃焼すると塩素化合物を含む煙塵が生成され、ダイオキシン発生の原因となりました。1995年の堺市でのダイオキシン公害事件を契機に社会不安が高まり、鉄鋼業界も本格的な対策に乗り出す必要がありました。

日本鉄鋼連盟は1997年度から3カ年計画で、50社以上を結集して研究委員会を設立し、ダイオキシン排出低減技術の開発に着手しました。関連技術としては大きく三つの柱がありました。

第一に「原料対策」。スクラップ中の塩化ビニールなど含塩素物質を事前に除去するため、光学選別機や磁力・比重分離装置が導入されました。これにより炉内に持ち込まれる塩素の量を減らす工夫が進められました。

第二に「燃焼・操業条件の最適化」。電気炉内の温度制御を高精度化し、完全燃焼を促すことで、ダイオキシンが生成されやすい温度域(200〜400℃)をできる限り避ける操業技術が検討されました。さらに酸素富化操業や急冷技術が導入され、生成を抑制する工夫が盛り込まれました。

第三に「排ガス処理技術」。炉から出る排ガスは、バグフィルターによる集じんや急冷設備を経て処理されました。特に急冷装置(急速冷却システム)は、ダイオキシンが再合成される温度帯を素早く通過させる効果があり、欧州でも注目されていた技術です。また、活性炭吸着法によって排ガス中の残留ダイオキシンを捕捉する試みも並行して進められました。

これらの技術は単なる環境規制対応にとどまらず、鉄鋼リサイクルの健全化や国際的な環境基準への適合を意識したものでした。当時、EUは廃棄物焼却炉のダイオキシン排出基準を0.1ng-TEQ/Nm³に引き下げる方向に動いており、日本も同水準を視野に入れた対策を迫られていました。

こうした努力はISO14001の取得や、CSR活動としての環境報告書発行へとつながり、鉄鋼業が「環境と共存する産業」として再定義される端緒となりました。技術革新を通じて、環境負荷低減を「産業競争力」と捉え直す時代の転換点でもあったのです。

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