煙の向こうに締め切りが見える 2002年
2002年末、ダイオキシン類対策特別措置法の暫定期間が終わる。けれど全国の焼却炉の約7割は基準に届かない見通しとされ、現場はざわついていた。設備更新に踏み切れない事業者は転業や撤退を視野に入れ、行き場を失う廃液の処理費は跳ね上がるかもしれない。規制の時計は進むのに、装置と資金は追いつかない。社会の背骨にひびが入る音が、かすかに聞こえる。
背景には景気低迷がある。投資の判断が鈍る一方で、制度は待ってはくれない。廃棄物処理法の改正でマニフェストは全産業廃棄物に義務化され、個別リサイクル法は広がり、ダイオキシン法は焼却そのものの再設計を迫る。自治体は逼迫する最終処分場に頭を抱え、広域化と計画的整備を急いだ。不法投棄を未然に防ぐ責任も、排出者の肩に重く載る。
規制は大気だけに向いていない。水の基準も強まる。対象施設が追加され、ダイオキシン類の排出は1リットル当たり10pg-TEQという、逃げ場のない数字が突き付けられた。煙と水の両方を見据えること。これが新しい常識になった。
短期の処方箋は明快だ。高温での完全燃焼、十分な滞留時間、急冷。活性炭噴霧とバグフィルタの併用、触媒による分解。飛灰は薬剤処理や溶融で封じ込める。既設炉を可能な限り磨き上げること。中長期には、リサイクル強化と広域化、施設の集約と高効率化で焼却依存を減らすこと。二段構えで進むしかない。
規制強化は負担か。それとも転換の合図か。基準未達の影は重い。しかし、燃やし方を変え、集め方を変え、地域の流れを組み替えれば、環境負荷とコストは同時に小さくできる。2002年は、煙の色だけでなく、産業と自治の手並みまで問われた年だった。
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