Tuesday, September 16, 2025

北海道下川町「森林クラスター特区」―2002年前後の文脈から

北海道下川町「森林クラスター特区」―2002年前後の文脈から

2002年前後、日本では京都議定書批准を控え、温室効果ガス削減に向けた地域レベルでの具体策が模索されていた。中でも、地方の森林資源を温暖化対策と産業振興に同時に結びつける構想が注目された。北海道北部に位置する下川町は、林業の伝統を背景にしながら過疎化や林業不振に直面しており、この課題を逆手に取って「森林クラスター特区」としての再生を構想した。

この特区の柱は、第一に「森林保全を温暖化防止の最前線に位置づける」ことであった。二酸化炭素吸収源としての森林を守りながら、伐採・再造林の持続的循環を確立し、同時に森林資源を産業に活かす方向を打ち出した。これにより、森林を単なる自然資源ではなく「地域を支える基盤インフラ」として位置づける試みとなった。

第二に、「産業クラスターの創造」である。国有林管理を市町村に委託し、地域が自ら主体的に森林経営に取り組む仕組みを整えると同時に、森林体験やエコツーリズム、林産物加工など多様な産業を連鎖的に育成する構想が示された。特に農家民宿の開業規制を緩和し、都市住民の長期滞在や体験型観光を通じて、森林文化と地域経済を両立させようとした点が特徴的であった。

また、この特区は地域住民の起業化を後押しする意図も強く、森林に関わる教育・研修、NPO活動支援、民間投資の呼び込みなど、従来の林業依存からの脱却を目指した。森林は環境保全と同時に新しい仕事を生み出す場として捉え直され、「環境立町」としての下川町の姿を全国に示そうとしたのである。

この構想は、環境政策と地域活性化を一体化させる2000年代初頭の先駆的試みであり、後の「環境モデル都市」や「地方創生」政策にも通じる理念を先取りしていたといえる。

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