Thursday, September 11, 2025

「夜の街」叩きとメディアの罪―2020年7月の社会背景

「夜の街」叩きとメディアの罪―2020年7月の社会背景

2020年7月、緊急事態宣言が解除され、人々が「新しい生活様式」を模索する中で、感染者数は再び増加に転じた。メディアは連日のように感染拡大の要因を探し、その矛先を「夜の街」に向けた。実際には全国の歓楽街で感染が確認されていたが、報道の多くは新宿・歌舞伎町を象徴的に取り上げ、映像にはネオン街やホストクラブの看板が繰り返し映し出された。こうして「夜の街=歌舞伎町」という短絡的な構図が社会に定着していった。

背景には、メディアが視聴者の恐怖や不安を刺激することで注目を集めるという構造的な問題があった。昼間のオフィスや家庭内での感染リスクは十分に存在したにもかかわらず、それらは可視化されにくく、派手でわかりやすい夜の繁華街がスケープゴートにされた。結果としてネット上では「歌舞伎町を閉鎖しろ」「水商売をやめろ」といった過激な声が飛び交い、実際に働く人々への差別や偏見が強まった。

この時代背景には、コロナ禍で膨らんだ社会不安を「誰かの責任」に帰することで安心を得たいという心理があった。同時に、政治にとっても「夜の街」対策は世論の支持を得やすい象徴的な施策であり、報道と行政の利害が一致してしまった面も否めない。だがその犠牲は現場で働く人々に押し付けられ、メディアの「映像の選択」が偏見を固定化する役割を果たしたのである。

こうして2020年夏の歌舞伎町は、実際以上に「感染震源地」として描かれ、恐怖を煽る報道の罪と社会の脆弱さを象徴する存在となった。

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