Saturday, December 20, 2025

マニラ企業によるごみ発電と排出量取引――都市が抱えた矛盾と希望が交差するフィリピン発の挑戦(2008年前後)

マニラ企業によるごみ発電と排出量取引――都市が抱えた矛盾と希望が交差するフィリピン発の挑戦(2008年前後)
2000年代後半、フィリピンは深刻なごみ問題とエネルギー不足という二重苦に直面していました。急速な都市化によって、マニラ首都圏から日々膨大な量の廃棄物が発生し、処分場は逼迫。さらに国内電力生産は化石燃料への依存が高く、石油価格高騰の影響で電力コストが上昇していました。この状況を受け、都市廃棄物を燃料とする「廃棄物発電(Waste-to-Energy)」が注目されます。特にマニラの一部企業は、焼却炉で発電を行い、同時に温室効果ガスの削減量を排出権として販売する、新しい収益モデルの構築に動きました。
当時の背景には、日本・欧州を中心に進んだ京都議定書とクリーン開発メカニズム(CDM)の拡大があります。先進国は削減義務を負う一方、途上国は削減プロジェクトを通じて排出権を得ることができ、これが国際市場で取引される仕組みでした。フィリピンでは、廃棄物発電によるCO2削減量をクレジット化する動きが活発化し、マニラの企業もCDM申請を進めました。
こうした技術導入は環境面と経済面双方に効果をもたらしました。まず、ごみ処理が発電事業へと変換され、都市インフラの負担が軽減。同時に、化石燃料発電に代わる再生可能性の高いエネルギー供給源として地域の電力安定化に貢献しました。また国際的排出権市場への参入によって、外国資本や技術が流入し、フィリピン国内の環境ビジネス基盤強化にもつながりました。
ただし課題も残りました。焼却発電は、ダイオキシン発生など環境リスクへの監視、住民理解、設備維持コスト、政府規制の整備など多面の課題を抱えていました。また排出権価格が不安定であったこと、CDMの審査が厳格化したことも運営負担となりました。それでも、当時としては都市が抱えるごみとエネルギー問題を両立的に解決する画期的なモデルであり、後の東南アジア地域に広がる循環型社会政策の先行例として高い意義を持っています。
2020年代以降、フィリピンでは廃棄物発電に加え、埋立ガス利用や太陽光発電が新たに拡大。国際排出権制度は変容しつつも、当時の取り組みはアジアの環境エネルギー政策の転換点となり続けています。

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