Friday, December 19, 2025

海と陸をつなぐ貝殻の声 北海道八雲町で捨てられた殻が洗剤に生まれ変わるとき(2008年12月)

海と陸をつなぐ貝殻の声 北海道八雲町で捨てられた殻が洗剤に生まれ変わるとき(2008年12月)
2000年代後半、日本では環境配慮型商品への関心が高まり、生活分野における脱石油系製品の模索が進んでいた。2008年前後は、リーマンショックによる景気後退の裏側で、循環型社会形成推進基本法のもと、資源の再利用への方向性が強まり、廃棄物問題と新産業創出を結びつける試みが全国的に展開されていた。その流れの中で、北海道のホタテ貝殻大量廃棄問題は、地域特有の深刻な課題となっていた。殻は資源性を持ちながらも処理費用がかさみ、漁業側の負担となり、環境負荷と経済損失が同時に発生していた。
八雲町の北栄が開発した貝殻洗剤クリホーグは、こうした状況に対する実践的な解決策である。ホタテ貝殻を高熱処理して水酸化カルシウムへと変化させ、さらに酵素を組み合わせることで、洗浄力と安全性を両立させた。泡立ちを抑え、すすぎを一回で済ませる仕様は、家庭用のみならず業務用洗浄の効率化にもつながり、洗濯排水による環境負荷軽減と、水使用量削減に寄与する仕組みであった。当時、環境配慮型洗剤市場は注目されながらも、石油由来界面活性剤が主流で、代替洗剤市場は十分に開拓されていなかったため、貝殻由来という素材は、新規性と信頼性の両面で高い価値を持った。
一方で、原料となる貝殻は地域に大量に存在し、安定供給が可能であった点も特筆に値する。廃棄物であった素材が地域資源へと転換され、漁業の副産物から新たな付加価値を生む構造が生まれたことは、一次産業地域が直面していた経済停滞に対する新しい道筋でもあった。価格は120g入りで1250円と、一般的な洗剤より高めながら、天然素材、肌への刺激低減、環境配慮という付帯価値によって市場に浸透し、乾燥肌改善効果を期待する利用者の声も追い風となった。
貝殻洗剤は、省資源化、廃棄物削減、新規市場創出という複数の価値を有し、地域産業振興と環境負荷低減を同時に実現する事例として、当時の循環型社会形成政策に沿う動きであった。これにより八雲町は、漁業資源を基盤に環境技術分野へと踏み出した先駆的な地域の一つと位置付けられる。

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