2016年8月4日木曜日

植物工場のビジネスは限定的。

植物工場はビジネスとして極めて限定的


~過日、東京・国際展示場で開催していた「アグリビジネスJAPAN」をのぞいてみた。
国内外の約160余りの事業所が出展。農業従事者の出展が意外と少なくて、
目立って多かったのが家電、素材、機械メーカーの植物工場、施設園芸の出展だった。
そこで生産される植物のほとんどがレタス等の葉野菜、トマト、イチゴ類。
栽培技術は日進月歩の跡は見られるも、一番の課題はやはり生産者サイドの事業採算性。
ビジネスとして成立するのは極めて限定的だ。


●植物工場の現状
当日、会場内のあちらこちらに何層にも積まれたプランナーの中でレタス等の葉物類
ばかりが目に付いた。こうした自然・生態系から外れたところで食材を生産する植物
工場のビジネスは果たして可能なのか? 
そもそも植物工場とは何か?
植物工場のタイプは、大きく分けて太陽光型(LED併用を含む)と、太陽光なしで
LED光源利用の完全人工光型の2種類がある。
太陽光型は、温室型の半閉鎖環境で太陽光を基本的に利用。雨天・曇天時の補光、
夏季の高温抑制等により一年を通して計画生産が可能で、レタス類、ホウレンソウ
等の葉物類に加えて、トマト、イチゴ等を中心とした果菜類も栽培に適しているの
が特徴。また平面(1面)で栽培するため、栽培面積確保が容易であり、適正な収穫量
の調整も可能だ。
一方、太陽光を利用しない完全人工光型は、閉鎖環境内で計画生産を行う生産方式。
レタス、ホウレンソウ等を中心とした葉物類(果菜類は極めて限定的)の生産が多い。
多段栽培による栽培面積確保が可能となり、収穫量が多く見込まれて、大消費地に近
い(流通コストが安い)都市部周辺での設置適性が高いのが特徴。

●普及しない植物工場
この植物工場のキッカケは、2009年の農地法改正、及び経産省、農水省による植物工場
普及・拡大総合対策事業という補助金150億円付きの政策。スタート時は植物工場は約
50か所(ほとんどが全滅)。その後2011年東日本大震災による農地の津波による塩害、放
射能汚染を抱える被災地農家の復興の手立てとして植物工場への関心が再燃した。2013年
には177戸(大半は完全人工光型)となり、特に製造業などの異業種からの新規参入が増えた。
その背景には「技術栽培、設備)の進歩」「生産管理手法の確立」「コスト(栽培施設、設備等
のイニシャルコスト、光熱費、人件費、物流コストなどのランニングコスト)削減」により、農業
関連以外の事業者が参入する土壌が整ってきたからだと言う。
しかし植物工場の事業としての成功事例は10%未満だと言われている。

●ビジネスとしての現在は困難なのでは
時を経て今回の「アグリビジネスJAPAN」見学となった。
植物工場のほとんどが完全人工光型。展示事業者は家電、素材、機械メーカー等製造業が
多かった。聞けば「名刺交換ばかりで、商談成立までには程遠い」の声が圧倒的に多い。
現時点では設備の更なる改善は然ることながら、栽培ノウハウも未完成。それより何より栽
培された野菜の多くは出口(市場)が見えてこない。さらに野菜の生産コストが露地ものよりも
はるかに高い。植物工場産レタスの価格は1kg1000~1500円。露地もの3倍だ。
照明、エアコン代、水耕調整の手間ひま等が掛かり、併せて品質のばらつき、生産効率の
悪さを考えるとビジネスとして前途多難。産業に成り得ないと農業の難しさを知る農業従事者
は遠くから見て近寄って来ないといったところだ。
ただ成功の可能性として注目したいのは高付加価値の薬草・ハーブ、高級スーイツ用
のフルーツ類の栽培だった。