〈義の花、血に咲く――旗本と町奴の相克〉－江戸初期（寛永年間）

〈義の花、血に咲く――旗本と町奴の相克〉－江戸初期（寛永年間）

寛永の世。武家の支配が強まりゆく江戸の町には、もう一つの秩序が息づいていた。町奴と呼ばれる侠客たちが、火消や木戸番を通じて町を守り、人々の信を集めていた。その棟梁こそ幡随院長兵衛であり、武士ではない者が町の正義を体現する存在であった。

一方、将軍家光のもと、武威と格式を帯びた旗本・水野十郎左衛門は、幕府の威信を背負い町を闊歩していた。両者の因縁は芝居小屋をめぐる抗争とされるが、真の火種は、身分と義のせめぎ合いにあった。

対立は激化し、血を見た。だが幕府は両者を「喧嘩両成敗」として裁き、町奴の義にも旗本の横暴にも冷たい均衡を下した。幡随院の死は、秩序の名の下に散った一輪の花であった。

これは江戸という都市に根を張るもう一つの正義、そして身分制度の中で揺れる矜持の物語である。