Wednesday, April 9, 2025

廃棄の海を越える影 電子ごみと環境犯罪の記録 2000年代から2020年代

廃棄の海を越える影 電子ごみと環境犯罪の記録 2000年代から2020年代

2009年、日本国内で回収されたパソコンやモニター、携帯電話といった電子機器が、本来なら国内で適切に処理されるべきところ、発展途上国へと「中古品」名義で輸出されていた。中国南部、広東省貴嶼では、日本を含む先進国から届いた電子ごみが山のように積まれ、裸の手で基板が剥がされ、プラスチックが燃やされ、酸で金属が取り出されていた。空気は鉛や有害ガスで満ち、地下水はカドミウムや水銀で汚染された。

こうした廃棄物輸出は、国際条約や日本の廃棄物処理法に違反している。しかし長年、制度の隙を突く形で黙認されてきた。「再利用目的」として出荷された多くの廃電子機器は、現地で再資源化されることなく環境を破壊し、地域住民の健康と生活を脅かしてきた。作業に当たるのは子どもたちのこともあり、毒性のある基板を素手で扱っていた。

それから10年以上が経過し、2020年代に入っても状況は大きくは変わっていない。ある報告によれば、2019年の世界全体の電子廃棄物は約5360万トン。そのうちリサイクルされたのは17パーセント程度にすぎない。日本でも2022年度には39230台の家電製品が不法に投棄された。減少傾向にはあるが、高い水準が続いている。

こうした環境犯罪が起きる背景には、制度の不備と社会の意識の低さがある。日本には家電リサイクル法があり、使用済み機器の回収制度も整っている。しかし、流通業者や回収業者によっては「中古品」として国外に出荷し、実態はただの廃棄物であるケースも多い。環境省や税関も対応を強化しているが、流通経路は複雑で監視が行き届かない。

被害を受けるのは、アジアやアフリカの現地の人びとである。ガーナのアグボグブロシーでは、大量の電子ごみが野焼きされ、住民の健康に深刻な影響を及ぼしている。フィリピンやベトナム、カンボジアでも、有害物質による土壌や水の汚染が広がっている。

一方で、日本と東南アジア諸国は、使用済み機器から重要な金属を取り出す技術や仕組みの共有を進めている。再利用の輪を広げ、環境にやさしい循環を目指す努力が始まっている。だが、本当に求められるのは、モノづくりの段階から無駄を減らし、使い終えた後の行方まで考えること。そして、私たち一人ひとりが「使い終えた機械のその後」に目を向けることである。

電子ごみの問題は、ただの廃棄ではない。それは、人間と地球の関係を映し出す鏡だ。見えないところでつながる責任の糸が、静かに、確かに、未来を編んでいる。

 

関連情報

・国際海事機関「バラスト水管理条約」
・国連大学「電子ごみに関する報告」
・環境省「家電リサイクル制度に関する資料」
・バーゼル条約事務局「有害廃棄物の越境移動に関する監視」
・ジュネーブ環境ネットワーク「電子廃棄物と環境」
・国際NGO「アジアでの電子ごみの不法処理に関する調査」
・日本とASEANの協力プロジェクト「資源回収と再利用」

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