仮想戦場に潜む国家の影――北朝鮮ハッカーと「リネージュ」悪用事件(2011年)
2011年、韓国警察は、北朝鮮のハッカー集団が中国に拠点を構え、韓国の人気オンラインゲーム『リネージュ(Lineage)』を悪用して巨額の不正利益を上げていたことを突き止めた。
『リネージュ』は、韓国のゲーム会社NCソフトが1998年にリリースしたMMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)で、中世ファンタジー世界を舞台に、プレイヤーがモンスターを倒して経験値やアイテムを得る仕組みが特徴である。その後も続編や派生作品が多数登場し、アジア全域で高い人気を誇る。
この事件では、北朝鮮のハッカーたちがボットと呼ばれる自動操作プログラムを用いて、ゲーム内のモンスターを自動的に退治し、戦利品として得られるポイントやアイテムを蓄積していった。これらのポイントは、ゲーム内通貨や高価な装備としてゲームユーザーに販売され、現金化された。韓国当局の調査によれば、このサイバー犯罪によって得られた収益はおよそ600万ドル(当時約26億ウォン)に達したとされている。
これらのハッカーは、北朝鮮国内で訓練を受けたIT人材で、中国に渡航し、韓国の暴力団など現地の協力者と手を組んで作戦を展開。拠点では、数十台のPCを稼働させ、数ヶ月にわたり自動操作による不正なポイント稼ぎを行っていた。
警察は、この活動が北朝鮮の外貨獲得機関「39号室」の支援を受けていた可能性が高いとみている。ゲームという一見無害な娯楽の場が、国家ぐるみのサイバー作戦の温床となっていたのである。
この事件は、サイバー空間においてゲームと国家、安全保障が交差する危険性を初めて世界に示した。単なる不正アクセスではなく、ゲームという仮想空間を「戦場」と見立て、組織的かつ継続的に国家の資金源を構築していた事実が、世界の注目を集めた。
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