Saturday, April 26, 2025

仮面をまとった兵士たち――アメリカの情報戦とFacebookと靴下人形(2010年代初頭)

仮面をまとった兵士たち――アメリカの情報戦とFacebookと靴下人形(2010年代初頭)

米国のSNS上での「靴下人形(sock puppet)」に関する活動は、主に「Operation Earnest Voice(OEV)」と呼ばれる米中央軍(CENTCOM)による心理作戦の一環として行われた。この作戦は、偽のオンライン・ペルソナを用い、外国語のウェブサイト上で親米的なプロパガンダを広め、過激派のイデオロギーや宣伝に対抗することを目的としていた。

Operation Earnest Voiceでは、中東や中央アジアの過激派フォーラムやSNS上で親米的な意見を拡散するため、精緻に設計された偽アカウントが投入された。各アカウントは、技術的、文化的、地理的背景に一貫性を持たせ、まるで異なる地域の現地人であるかのように振る舞うよう仕立てられた。VPNや静的IPアドレスが用いられ、さらにセッションごとに消去される仮想マシン環境も利用されていた。オペレーターは一人で最大十個の偽アカウントを操り、2011年には米政府がカリフォルニアの企業Ntrepidと約276万ドルの契約を結び、専用ソフトウェアの開発を依頼したとされる。

このような偽アカウントによる情報操作は、世論形成に重大な影響を及ぼしかねないため、倫理的、法的観点から強い懸念が寄せられた。特に、公共空間における意見の信頼性を歪め、合意形成そのものを攪乱する恐れが指摘された。

「靴下人形(sock puppet)」とは、本来、オンライン上で他者を装って意見を述べる偽アカウントを指す。自己の意見を、あたかも第三者の賛同であるかのように見せかけ、意見の正当性や影響力を偽装する手段として機能する。

CENTCOMの広報担当者ビル・スピークスは、Operation Earnest Voiceの技術はアラビア語、ペルシア語、ウルドゥー語、パシュトー語といった外国語ウェブサイト向けに使用されるものであり、FacebookやTwitterといった米国拠点のプラットフォームで使用される意図はないと説明した。これは、米国法により、米国内の市民を対象とした政府のプロパガンダ活動が厳しく禁じられているためである。

しかし、情報の波は国境を超える。Operation Earnest Voiceによる活動が、意図せぬ形でFacebook上の世論形成に間接的影響を与えた可能性は否定できなかった。実際に、Facebook上では他国政府による偽アカウント活動がたびたび発覚しており、イランによるスパイ活動や、米国の退役軍人を狙った外国勢力のトロール行為などが報告されている。

さらに2019年、米国国土安全保障省(DHS)は偽のFacebookプロフィールを用い、架空の「ファーミントン大学」に移民を誘導し、170人以上を逮捕する作戦を実施した。この事件は、米国政府が特定の目的でFacebook上に「靴下人形」を投入した稀有な例といえる。

こうして見渡せば、SNS上の偽情報操作は、すでに現実の問題として深く根を張っていることがわかる。情報の信頼性と透明性を守るためには、プラットフォーム側による監視体制の強化、そして、個々のユーザーが情報を見抜く目を養う努力が、今後ますます重要になっていくだろう。

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