闇貨の追跡者たち――北朝鮮の仮想通貨工作線(2020年代〜2025年)
二〇二〇年代、仮想通貨という新たな富の海に、ひそやかに忍び寄る影があった。北朝鮮――その国家は、サイバー空間を舞台に、世界を股にかけた襲撃劇を繰り広げていた。中心となるのは「ラザルス・グループ」と呼ばれる秘密部隊。彼らは、仮想通貨取引アプリに偽装したソフトをばらまき、利用者の情報を盗み取った。
二〇二五年、アラブ首長国連邦の取引所「バイビット」から十五億ドル相当の仮想通貨が消えた。その前年には、日本の「ディーエムエム・ビットコイン」も三億ドル規模の被害を受けた。犯行に使われたのは、「トレーダートレイター」や「アップルジュース」と呼ばれる不正プログラム。巧妙に仕組まれた罠だった。
さらには、「キャンディコーン」という新手のプログラムが開発者を狙い撃ちにし、オンラインの交流アプリを通じて感染を広げた。北朝鮮はアメリカに偽の企業を設立し、正規の開発者を装って近づき、遠隔操作機能を通じて情報を盗む。開発用の共有サイトに細工を施すなど、その手口はますます高度化している。
奪われた莫大な仮想通貨は、核開発や軍備に注がれているとされる。光の届かぬ仮想の裏路地で、国家の影が牙をむく。仮想通貨という自由の象徴は、いまや鋭利な刃にもなり得る。亡霊のような攻撃者たちは、世界のどこかで、また新たな扉を開けようとしている。
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