水脈を取り戻す――パリ市水道再公営化の記憶(2010年)
2010年、パリ市は水道サービスを四半世紀ぶりに公営へと戻した。民間委託のもとで失われたもの、それはただの金銭ではなかった。透明性、信頼、そして市民の声。ヴェオリアとスエズという巨大企業の管理下で、静かに高騰していった料金と、遠のいた市民との距離を取り戻すため、市は自ら水脈を手に取り直す決断を下した。
1985年から続いた民間委託は、都市の成長とともに始まったが、やがて契約の不透明さと費用の増大が批判を呼び起こした。新市長ベルトラン・ドラノエのもと、2008年に再公営化が決議され、2010年には「オー・ド・パリ」が誕生する。市民を含む理事会、公開される財務情報、そして何よりも、水を単なる商品ではなく公共財として守るという意思がそこにはあった。
再公営化後、水道料金は引き下げられ、運営の透明性も格段に向上した。その成果は2017年、国連公共サービス賞というかたちで世界に認められる。パリの水は、ただ蛇口から流れ出るものではない。そこには、市民が取り戻した誇りと、未来への静かな約束が込められている。
No comments:
Post a Comment