Sunday, April 27, 2025

水の還る都――パリ市水道再公営化の軌跡(2010年)

水の還る都――パリ市水道再公営化の軌跡(2010年)

パリ市は2010年1月、25年間にわたり民間企業に委託していた水道サービスを再び公営化しました。この再公営化の背景にはコスト削減、透明性の向上、市民参加の促進などさまざまな要因がありました。

もともとパリ市は1985年、水道サービスの管理をヴェオリアとスエズに委託していました。ヴェオリアは世界最大級の水処理・環境事業会社であり、スエズもまたグローバルに展開する大手水道・廃棄物管理企業です。両社は長年にわたりパリの水道事業を運営してきましたが、契約内容の不透明さやコストの増加が問題視されるようになっていました。2001年に社会党のベルトラン・ドラノエが市長に就任すると、民間委託から公営化へ転換する方針が打ち出され、2008年にはパリ市議会が再公営化を正式に決定しました。そして2010年1月、新たに設立された公営企業「Eau de Paris(オー・ド・パリ)」による運営が始まりました。

再公営化の主な目的はコスト削減と効率化、透明性と説明責任の向上、市民参加の促進、そして国際的な連帯と協力でした。民間企業への配当金や管理費用が不要となったことで、2011年には水道料金が8パーセント引き下げられました。また運営に関する財務情報の公開が進み、市民への説明責任が強化されました。さらにEau de Parisは市民や労働組合、NGOの代表を理事会に迎え、市民参加型のガバナンスを実現しました。国際的にもモロッコ、モーリタニア、カンボジアなどとの協力を通じて、水道分野における連帯活動を展開しています。

再公営化後、Eau de Parisは料金引き下げやサービスの質の向上といった成果を上げ、2017年には国連公共サービス賞を受賞しました。この成功はパリ市だけでなく世界中の都市に影響を与え、公共サービスの民間委託からの脱却を目指す流れを加速させました。フランス国内では2002年から2017年の間に106件の水道サービスが再公営化され、他国にも波及しています。

【関連情報】
ヴェオリアは、フランスを本拠地とする世界最大級の水処理・環境サービス会社であり、世界各地で上下水道、エネルギー、廃棄物管理を手がけています。
スエズは、水処理や資源リサイクル分野に強みを持つフランスの多国籍企業であり、かつては水道運営大手として、ヨーロッパやアジア、中南米でも多数のプロジェクトを展開していました。

【参考文献・情報源】
- Eau de Paris公式FAQ
- 「Remunicipalisation of Water Utilities」報告書
- Anne Le Stratによる報告書
- Transnational Institute「Here to Stay」報告書

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