声なき声の地図――柳田国男をめぐる思索(1974年)
1974年、日本は高度経済成長の熱気が冷め、第一次オイルショックに揺れていた。農村は過疎に悩み、都市は飽和し、失われていくものへの郷愁が社会に満ちていた。その中で柳田国男の名が、再び静かに呼び戻されていた。彼は庶民の暮らしや語りを丹念に拾い集め、「常民」という言葉に思想の息を吹き込んだ民俗学の創始者である。『遠野物語』に代表される彼の仕事は、文字にならぬ声を記録し、未来への橋とする営みだった。
この年の文芸誌において、柳田は単なる学者としてではなく、記録者としての倫理を体現した存在として語られる。都市の言葉では捉えきれない周縁の記憶、その裂け目に立つ姿勢こそが、70年代の知識人たちにとっては一つの希望でもあったのだ。聞くこと、歩くこと、記すこと――柳田の方法論は、時代の批評装置として静かに息を吹き返していた。そしてその視線は、変わりゆく日本に、今なお問いを投げかけ続けている。
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