**「海を越えて還るボトル ― 八丈島資源循環の試み」―1998年9月**
1990年代後半、日本各地でリサイクル制度の整備が進むなか、太平洋に浮かぶ孤島、東京都八丈島では、廃棄物処理が深刻な課題となっていた。人口約8000人、東京から南へ300キロ。限られた土地と焼却施設では、都市部のような廃棄物処理は到底まかなえず、処理の多くを本土に依存するしかなかった。
こうした中、1998年、島ぐるみの取り組みとして、PETボトルのデポジット制度導入が始まった。これは、購入時に数円を預かり金として上乗せし、使用済み容器を返却すればその分が返金される仕組みである。対象となったのは、2リットル以下のPETボトル、500ミリリットル以下のアルミ缶・スチール缶。商店は識別シールを貼り、回収と精算の拠点となった。島民の間には、「出したら、きちんと戻す」という意識が芽生えていた。
この試みは、前年に本格施行された容器包装リサイクル法の制度設計に基づくものであったが、離島では制度の運用が難しいとされていた。八丈島では、住民、自治体、小売業者が緊密に連携することで、本土への船便による回収という新たな循環の形が構築されつつあった。運搬コストや収集体制の問題を抱えながらも、「海を越えて還る」資源の輪が、ここに描かれはじめたのである。
この八丈島モデルは、地域内での再資源化が困難な地域において、「回収」と「連携」によって資源循環を可能にする先駆的な取り組みだった。行政と住民、事業者が役割を分担し、日常のなかに資源循環の意識を根付かせたこの運動は、全国の離島や過疎地域に波紋を広げていった。島の静かな浜辺を出た一本のボトルが、東京湾を越え、再び島へと価値を返してゆく。その循環には、経済や制度を越えた、人の手と意志が確かに宿っていた。
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