〈影法師の誇り――家光政権と水野勝成の矛盾〉－江戸初期（寛永年間）

〈影法師の誇り――家光政権と水野勝成の矛盾〉－江戸初期（寛永年間）

寛永の世、徳川家光の治世は、「武断」から「文治」への転換が進む時代であった。幕府は大名統制を強化し、中央集権体制の構築に邁進した。だがその陰で、旧き武人の矜持を守り抜いた一人の男がいた。水野勝成である。徳川家康の従兄弟にして、戦国の修羅場をくぐり抜けた猛将は、備後福山の藩主として異彩を放っていた。

勝成は、家光が進める内政重視の政策のなかにあっても、現場に根ざした実践的統治を貫いた。町づくり、産業育成に尽力し、中央の論理に盲従することなく、地方に生きる者としての責務を果たした。その姿は、格式を誇るだけの支配者ではなく、地に足をつけた政治家であり、民の生活を支える真の藩主だった。

幕府が旗本や御家人の政治力を増し、大名の発言力を封じ込めようとする中で、勝成はなおも自立の姿勢を崩さなかった。武威に頼らず、誇り高く、静かに抗うその生き様は、幕府体制が生んだ「文」の時代において、最後の「武」の影法師であった。