監視の網と信頼の崩壊 ― PRISM事件と企業の反発(2013年)
2013年に暴露されたPRISMは米国政府が合法的な要請に基づきグーグルやマイクロソフトなど大手企業から特定データを取得する仕組みであった。しかし同時期にNSAと英GCHQが企業の協力なしにデータセンター間を盗聴する「MUSCULAR」計画も明らかになりシリコンバレーの怒りを決定的にした。これまで法に従い政府に協力してきた企業は自社のインフラが勝手にハッキングされていた事実に衝撃を受け社内では「裏切られた」という感情が渦巻いた。NSAを風刺するシンボルが広まり企業と政府の信頼関係は大きく損なわれた。
当時は9.11後の「テロとの戦い」で監視権限が拡張しSNSやクラウドの普及で個人データが爆発的に増えていた時代である。こうした状況で監視実態が露呈したことは米国の自由主義的イメージを傷つけ国際的な非難を招いた。EUでは「デジタル主権」の議論が高まりGDPRやデータ移転規制につながった。中国やロシアは米国の二重基準を批判し自国のネット統制を正当化する材料とした。
企業はこの危機を契機に透明性レポートを発行し暗号化の徹底へと舵を切った。グーグルやヤフーはデータセンター間通信の暗号化を強化しアップルやマイクロソフトも暗号化基盤を拡張した。さらに「Reform Government Surveillance」という公開書簡で制度改革を訴え2015年のUSA FREEDOM Act成立へとつながった。PRISM事件は単なる監視の暴露ではなく国家安全保障とプライバシー国際的データ秩序を根底から問い直す転換点となったのである。
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