Monday, September 29, 2025

VOC対策と印刷業界での実証事業―2006年

VOC対策と印刷業界での実証事業―2006年

2000年代半ば、日本は環境規制を一層強化する転換期にありました。京都議定書が2005年に発効し、温室効果ガスや大気汚染物質の削減が国際的な責務となる中、国内でも揮発性有機化合物(VOC)の排出抑制が急務とされました。VOCは光化学スモッグの原因物質であり、都市部では健康被害や環境悪化を招く要因として強い懸念が広がっていました。

2006年に施行された大気汚染防止法の改正は、事業者に対してVOC排出量を3割削減する厳しい目標を課しました。環境省はこれに対応するため、「VOC排出インベントリ検討会」を設置し、業種ごとの排出実態の把握と技術的解決策の検討を進めました。特にグラビア印刷業界は、溶剤を多用する構造的な事情から対応の遅れが目立ち、規制強化への不安や中小業者の経営負担が社会問題化しました。

そこで環境技術実証モデル事業が導入され、低VOCインキや回収・再利用設備など、先進的な削減技術の実証試験が行われました。事業者の理解と参加を促すため、試験要領が公開され、行政・業界・研究者が連携する形での普及策が模索されました。こうした取り組みは、単なる規制遵守にとどまらず、日本の印刷業界全体が環境対応型の産業構造へと移行するための契機となり、のちの「環境ビジネス」拡大の一歩とも位置づけられます。

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