墨の匂いと灰の道 江戸 1603年から1868年
江戸時代の再利用は、倹約という倫理を超え、都市を持続させる実践として生活の隅々に組み込まれていた。紙や灰、金属、古布は屑買いによって集められ、問屋や職人の手を経て再び材料へ戻る。鍋や釜は鋳掛屋が直し、瀬戸物は焼き継ぎされ、傘や桶も修繕されながら使い尽くされた。壊れたら終わりではなく、直し、つなぎ、最後は素材へ還すという流れが町の経済を支えていたのである。
この循環の中心には、下肥と灰の回収があった。都市から出るし尿や竈の灰は有価物として農村に引き取られ、肥料として田畑へ戻る。そこで育った米や野菜が再び江戸へ運ばれ、都市と農村は物質循環で結ばれていた。汚れは単なる廃棄物ではなく、次の生産を支える資源として扱われたのである。
回収と修繕が結びつくことで廃棄物は抑えられ、資源の流出は最小化された。限られた燃料と資材のもとで、流通と職能と生活習慣が一体となり、循環型の社会構造が形成された。江戸の町は、物を使い切る知恵と制度を重ねながら、資源を活かし続けていた。その姿は、現代が模索する循環型社会の遠い原型として、今も静かに示唆を与えている。
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