時代の横顔を歩む 市川春代 1913-2004
市川春代の歩みは、戦前・戦中・戦後という激動の時代を、女優として真っ向から受け止めた記録でもある。戦前の黄金期、モダンな都会文化の香りが広がる中で彼女は華やかな存在感を放ち、観客に新しい女性像を提示した。戦争が激しくなると、映画の多くは国策色を帯びるようになり、彼女もまた過酷な時代の中で役を選ぶ自由を奪われた。しかし、その困難を経た後、戦後の再出発では、強さと優しさを併せ持つ母性や成熟した女性像へと変化し、観客の心に静かな安堵をもたらした。高度成長期に入り、価値観が大きく揺らぎ始めた社会の中で、彼女の落ち着いた存在感は"変わらないもの"として観客に愛され続けた。市川春代は、時代の横顔を静かに歩き続けた稀有な女優である。
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