資本の細胞をめぐる静かな序章(1867年)
マルクスが『資本論』第1巻第1章第1節で語る商品は、単なる物体ではなく、資本主義という世界の深層を照らす小さな灯のように扱われています。資本論 第1巻の冒頭では、資本主義社会の富が一つの塊として現れるのではなく、無数の商品という粒子の集合として世界に姿を現すことが強調されています。これらの粒子は、社会的な生産と交換の網の目の中で静かに結びつき、目には見えない大きな流れを形づくっています。
商品は、人間の欲求を満たす有用性という具体的な側面を持ちながら、その背後には社会的な交換を前提とした価値が潜んでいます。価値は、個々の職人の技能ではなく、社会全体にとって必要とされる平均的な労働時間によって測られます。この二つの顔を持つ商品こそが、資本主義社会における富の基本単位、すなわち最小の細胞であるとマルクスは捉えました。
この細胞には、資本主義の構造と運動の秘密が凝縮されています。巨大な工場の動きも、金融市場の波のような変動も、さらには国家の経済構造さえも、すべてはこの小さな商品という細胞の働きへと遡って理解することができます。使用価値という具体的な側面と、交換価値という抽象的な側面が、一枚の紙の表裏のようにひとつの存在の中で重なり合い、分離できない形で結びついています。
マルクスが商品に注目した理由は、資本主義の全体像を把握するためには、この最小単位の精密な理解が必要だと考えたからです。細胞の構造が分かれば、細胞の集合としての社会がどのように成長し、緊張し、矛盾を抱えながら動いていくのかが見えてきます。商品は、富の出発点であると同時に、貨幣、資本、搾取、蓄積などへと続く道筋の入り口でもあります。
1867年の静かな第一章に置かれた商品という存在は、単なる売買の対象を超えて、資本主義という世界の扉を開く鍵となります。小さな粒子の中に、社会全体の運動が潜み、その先にはさらに深い分析へ続く長い道が伸びています。
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