砂と迷宮のあいだで 安部公房と戦後日本の実験精神 一九五〇年代から一九六〇年代 一九五〇年代から一九六〇年代
安部公房の文学は、敗戦後の日本社会が抱えた価値の崩壊と再編を、実験的かつ冷徹な視線で描き出した。一九五〇年代から六〇年代にかけて、日本は復興と高度経済成長へと進むが、その裏で個人は理念や共同体を失い、存在の根拠を見失っていた。安部は左翼知識人として出発しつつも、思想が人間を抽象化する危うさに早くから気づき、不条理な状況や匿名的な人物像を通じて、人間の孤立を表現した。砂丘や箱、迷路といった空間は、人を閉じ込める社会装置の寓意として機能し、成長社会の影を浮かび上がらせる。さらに演劇や映像へ活動を広げることで、文学という制度そのものを問い直した安部の試みは、救済を示さずとも、意味喪失後の人間のあり方を執拗に描き続けた戦後文学の核心を示している。
No comments:
Post a Comment