2024年7月7日日曜日

2001年の新しい環境法規制の動向 2001 01 78

環境に関する日本の法規制は1970年代の公害を対象とした「公害対策基本法」と自然環境の保全を目的とした「自然環境保全法」が軸となって法体系が出来上がっていった。しかし1990年代を迎え、地球環境問題が大きくクローズアップされ、1992年には地球サミットが開催されるとともに、従来の法体系では地球環境の現状や日本の国際協力に十分な対応ができないことから、1993年11月、新たに「環境基本法」が制定された。

この「環境基本法」の基本的な理念は従来の価値観から新しい価値観への転換を促すものになっている。つまり1970年代から1980年代の高度成長時代の大量生産、大量消費、大量廃棄という経済効率に準拠した「価値観」と、現在から将来にわたり求められる「価値観」は明らかに違ってきている。その新しい価値観は環境効率に準拠した「持続可能な発展」、すなわち「持続的に発展できる経済社会システム作り」なのである。

「環境法規制の動向」

環境問題に対する価値観が大きく変化するとともに、法規制も新たな枠組みの中で変換を遂げようとしている。具体的にいえば「持続可能な発展」という価値観のもとで「環境」「共生」「参加」「国際協力」へ向けて進もうとしている。これを企業の環境経営の立場から見れば、「公平な役割分担」のもとで、自然環境とも共生できる資源循環型社会を目指した経済社会システムの構築を進めることである。

環境法の分野では、このようなことを実現させるために種々の動きがあるが、大別すると1.資源(鉱物資源)の有効利用と廃棄物の適正処理及び再利用、2.エネルギー対策、3.有害化学物質の管理、4.自然環境の保全となる。

資源(鉱物資源)の有効利用と廃棄物の適正処理及び再利用
2つの取り組みがある。まず資源(鉱物資源)の枯渇が緊急を要する課題としてある。石油についていえば既存施設からの採取は42年後にゼロになる。したがって、従来のような資源は無限であり、大量生産・消費するという経済システムは持続不可能である。資源は有限であることを前提とした無駄なく、有効な利用を図る省資源化への取り組み。もうひとつは廃棄物の適正処理と再利用の取り組みである。
これまでも、廃棄物処理法の改正、各種リサイクル法の制定、企業の自主的取り組みなどにより、廃棄物・リサイクル対策は拡充されてきた。しかし今後、施策の優先順位確立、廃棄物の優先的リサイクル利用の推進など整合性のある枠組みが整備され、個別法(容器リサイクル法、家電リサイクル法など)に基づく関連施策が基本法に沿って総合的に遂行できる、国・地方公共団体・事業者・国民の取り組みの方向性を示すような基本「枠組み法」が必要となってきた。

1999年9月のダイオキシン対策関係閣僚会議では、2005年を中間目標、2010年を最終目標とした廃棄物の減量数値目標が決定された。一般廃棄物、産業廃棄物ともに最終処分量を約半分に低減することを目標としている。この目標値を達成するために政府は、まず使い捨て製品の製造販売・過剰包装の自主規制、再生品の利用促進などを産業界に指導していくほか、国民に対しては一般廃棄物の従量制による手数料を新たに徴収していく方針を固めている。

また最近、改正・成立した法律では、排出企業に産業廃棄物の最終処分の確認までを義務づけた改正廃棄物処理法をはじめ、個別リサイクル法においても企業の責任、役割が大きくなっている。

「循環型社会形成推進基本法と資源有効利用促進法」

2000年6月の通常国会で「循環型社会構築に関する基本的枠組み法」(循環型社会形成推進基本法)とそれに関連し、5つの法律、改正廃棄物処理法、資源有効利用促進法(旧再資源利用促進法)、建設資材リサイクル法、食品リサイクル法、グリーン購入法が成立した。廃棄物(循環資源)における循環型社会の構築へ向け、いよいよ具体的なフレームが固まり、本格的な社会構造の転換が始まろうとしている。

こうした動きの中で特徴的なのは「循環型社会形成推進基本法」「資源有効利用促進法」において強く打ち出されているリデュース(発生抑制)、リユース(再使用)の推進である。これまで循環型社会に向けた取り組みでは、マテリアルリサイクル、サーマルリサイクルといったリサイクル(再資源化)手法がとかく注目されがちだった。だがリサイクルはそもそも循環型社会構築のためのオプションのひとつに過ぎず、資源・エネルギーの効率的な利用、あるいは経済性の観点からも、すべてをリサイクルで解決するのは得策ではないとの認識が強まってきたからだ。循環型社会形成推進基本法では政策の優先順位としてリデュースを一番手にあげ、リユース及びマテリアルリサイクル、そして最後にサーマルリサイクルを位置づけている。


「これまでのメーカなどに再生資源の原材料としての利用やリサイクルしやすい素材の使用、素材の表示などを求めてきた「再生資源の利用促進に関する法律」(リサイクル法)も、リデュース、リユースを新たな柱として加え、「資源有効利用促進法」へと抜本的な改正がされた。2001年1月より自動車やパソコンなど14種類の製品について、製品別に製品重量を減らす、耐久性向上、修理システムの充実、アップグレードに対応した設計などリデュース対策や、再使用が容易な製品設計・製造や回収部品の再使用といったリユース対策が義務づけられる。」

このことは、産業界における製品づくりの発想や技術、回収も含めた事業手法の発想などに少なからずインパクトを与えることになる。民間レベルを含めた循環型技術開発において、これまで素材の循環や適正処理が中核となっており、機能の更新、再利用など、いわば付加価値技術のような視点は少なかった。今後、リデュース・リユース促進では、再利用可能な傷・摩耗などによる劣化の少ない素材、機能更新が可能な製品設計技術、部品ごとの使用履歴を管理する技術、長期使用を可能にするメンテナンス技術、寿命予測、検査、循環に関する製品情報を共有できる情報システムといったリサイクルとはまた違った技術開発が要求される。

「エネルギー対策」

現状の日本のエネルギー源構成は原子力35%、水力10%、残りを石油や石炭などの化石燃料に依存している。従来のエネルギー源は供給源の枯渇と環境負荷という面から、新しいエネルギー開発と、エネルギー供給時における効率的な利用を拡大していく必要がある。新エネルギーの技術や事業開発の促進については「新エネルギー利用等の促進に関する特別措置法」(新エネ法)が施行されている。同法では、新エネルギー利用などを総合的に推進するための基本方針を策定・公表するとともに、エネルギー使用者、供給事業者及び製造・輸入事業者の努力義務を明確化、通産大臣によって選定された新エネ利用計画の策定事業者に対する金融面での支援(債務補償、助成金、無利子融資)を行うことなどを規定している。新エネルギーとしては、(1)太陽光発電(2)風力発電(3)太陽熱利用(4)温度差エネルギー利用(5)天然ガスコージェネレーション(6)燃料電池(7)廃棄物の再生燃料(8)廃棄物熱利用(9)廃棄物発電(10)電気自動車(11)天然ガス自動車(12)メタノール自動車を想定している。

さらに現在、「自然エネルギー促進法案」が検討されている。一方、エネルギーの高い効率利用を図るための「エネルギーの使用の合理化に関する法律の改正」(改正省エネ法)があり、同法は、地球温暖化防止京都会議(COP3)をきっかけに国内でもCO2削減に向けた動きが本格化する中で、1999年4月から施行された。COP3で日本に課せられた排出量削減目標(2010年に1990年比6%削減)に向けた、工場の省エネ対策と電気機器や自動車など主要製品のエネルギー効率改善を狙いとしたもの。

「有害化学物質の管理」

化学物質は化学工業用の原材料から農薬、肥料、洗剤、繊維、医薬品、化粧品など極めて多岐にわたる製品に含まれており、その利便性から急速に生活の中に普及してきた。現在、世界で流通している化学物質は7、8万種類、生産量は毎年4億トンに達しており、さらに毎年1000~2000種が新たに合成されている。しかし化学物質が人体や自然界に与える影響についての研究が進むのに伴い、いかに有害化学物質を環境中に排出しないようにするかが大きなテーマとなっている。化学物質の管理を徹底し、排出規制を行うことで、環境への影響を最小限に食い止めることを目的とした法律の整備が進められている。

新法としては「特定化学物質の環境への排出量の把握等及び管理の改善の促進に関する法律」(PRTR法、2000年4月から段階施行)、「ダイオキシン類対策特別措置法」(2001年施行)があり、また既存法の規制強化も進む。環境省では2001年を目処に「大気汚染防止法」を大幅改正する方針。「水質汚濁防止法」についても、メッキ工場から大量に排出されるフッ素、ホウ素、硝酸性窒素の3物質の水質環境基準への追加を検討しているほか、東京湾と瀬戸内海、伊勢湾について総量規制を導入することを決め、2001年度から第5次水質総量規制に窒素・リンの追加を予定している。

「自然環境の保全」

現存する自然環境の維持・保全を図り、次世代へ継承していく一方、すでに人間の手によって破壊されてしまった自然環境を修復・復元し、生態系を回復していく取り組みだ。1997年の河川法の一部改正(治水から自然環境の維持が強化される)であり、1999年6月に施行された環境アセスメント法である。環境アセスメント法は自然破壊型開発事業には厳しいものとなっている。これまでのアセスメント(法律ではなく、条例などに基づいたもの)は、開発事業を正当化する「環境アセスメント」だった。しかし、今後は規模の大小を問わず、自然環境に影響が大きい場合は計画段階から生物の生態系まで把握したアセスメントが求められる。最近は自然破壊型の公共事業は数多く中止になっている。これからは自然環境保全の発想の転換を迫られるだろう。

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