病院から出るゴミの中には、感染性や毒性の強いものが混ざっています。
それが1980年代までは一般廃棄物や産業廃棄物と一緒に捨てられていました。
廃棄物処理業界の間では、医療廃棄物は『合わせ産廃』と呼ばれていました。
そのため、清掃関係者が注射針で手を刺す事故が後を絶ちませんでした。
また、不法投棄も増えていく一方で、病院側の経営不振から、ゴミ処理にコストをかけたくないという事情も影響しています。
しかし、そうした状況を打破しようと、厚生省は1989年11月に「医療廃棄物処理ガイドライン」を発表しました。
このガイドラインでは、注射針、チューブ、血の付いたガーゼなどを安全に処理するため、保管、収集、運搬、処理を規定し、都道府県に通知しました。
そして1992年には、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」が改正され、新たに「感染性廃棄物」という定義が生まれました。
感染性廃棄物は、爆発性や毒性のある廃棄物と並んで、特別管理産業廃棄物と特別管理一般廃棄物の中に区分されました。
滅菌処理が義務付けられ、医療機関には管理責任も課せられました。
1989年の厚生省の発表によると、医療機関から出る医療廃棄物は1日あたり1810トンであり、そのうち感染性廃棄物は1日あたり354トンにものぼります。
「なにしろ新しい市場になりますからね。
不動産、タクシー会社、士木会社などいろんな業種から参入してきましたよ。
いままで廃棄物処理は安い値段かあるいはタダ同然で引き受けてたんですが、感染性廃棄物の処理となるとその10倍以上にもなりますからね」と話すのは、(社)全国産業廃棄物連合会、医療廃棄物専門部会の渡辺昇部会長です。
同部会には200数10社が参加しており、適正な処理の方法を追求し、今後の業界の標準となるいわゆる「自主基準」作りを進めています。
確かに医療廃棄物処理ビジネスの進展は一時期華々しかったです。
NECや富士通などの異業種大企業が参入し、コンピュータを使った回収システムを作ったり、中にはトラックに焼却炉を積んで移動先で処理するユニークな発想も生まれました。
伊藤忠商事は病院用寝具大手の綿久寝具と提携しました。
廃棄物連合会、医療廃棄物専門部会の構成員である渡辺昇氏は述べました。
搬送・焼却処理技術を持った企業の方には仕事が減ってしまったそうですね。
法律ができて以来、うまく動いているように見えますが、実際は表面的なものだけなんです」と渡辺昇医療廃棄物研究所の渡辺さんは述べています。
法の改正後も厚生省では「感染性廃棄物処理マニュアル」を出して、処理の手順などを細かく指導しています。
さらに、処理の委託に伴う「特別管理産業廃棄物管理票(マニフェスト)」を交付し、医療機関が廃棄物を最終処理まで決定し、日本医師会と協議を行い、最終的に処理がされたか確認できるようなシステムも作られていました。
しかし、不法投棄やマニフェストの不正使用や偽造が横行している。
それが現状です。
適正な処理が行われるためには、それなりのコストが伴います。
将来は通信衛星を使って廃棄物処理全体を監視することが考えられますが、現在は業界全体が混乱しています。
渡辺さんは、「すでに脱落している企業がたくさん出ています。
ちゃんとやろうと思ったらできないんですから、これは業者もみんなやりにくいんですね。
みんな混乱してますよ。
誰もこのままでいいとは思っていません」と述べています。
医療機関側にもこの問題の重要性を理解してもらうために協議が行われています。
また、この協議会には厚生省の産業廃棄物対策家長、同補佐、水道環境部計画課長補佐の3名もオプザーバーとして出席しています。
さらに、今後は大阪と福岡でも同じメンバーに地域の廃棄物処理業者を加えて、実務研修会を開く予定です。
ようやく行政も重い腰を上げたようです。
管理しようという計画もありますから、本気なんですよ」(渡辺さん)95年4月1日に、法律レベルの処理がそのまま実行されるとは考えにくい。
また、違法業者を実質的に取り締まれるとも限らない。
しかし、近い将来にこの部会の動きが医療廃棄物処理ビジネスの本流となることは間違いない。
「自主基準」クリアの業者はわずか30社。
渡辺さんは、医療廃棄物専門部会への参加を1500社に呼びかけている。
そして92年9月の発足から少しずつ増えてはいるものの、現在200社を超えた程度。
この時点でかなりの業者が脱落していると言えよう。
最終的には300社が集まり、その中で数十社がこの「自主基準」の厳しさに対応できずあきらめていくだろうと渡辺さんは予想している。
「厳しいと言われても、法律やマニュアルに基づいて作っているんです。
確かに現在、この基準をクリアできているのは、処理業界の大手を中心にまだ30社くらい。
この基準によって、行政は指導しやすくなり、業者は目安になり、病院は自覚が持てるようになります」(渡辺さん)ある意味では、この「自主基準」は生き残りを賭けたハードル。
その「自主基準」(13頁下に要旨掲載)とはどんなものなのか。
たとえば焼却炉の場合は、大型炉(焼却能力1日50トン以上)の使用を奨めている。
医療機関での分別回収が現実味のないことから、撹拌もできる混燃タイプの大型炉で、自主基準では一緒に燃やせる医療廃棄物の割合は20%までとされている。
大型炉は排水、排ガスの規則がもともと厳しい。
また収集についても、容器に破損や内容物の漏れがあった場合には受領しないなどの制限も設けている。
容器の形状についてはこれから定めていくという。
では、将来的には医療廃棄物ビジネスはどのように発展していくのだろうか。
「今回の法改正では、医療廃棄物の中の感染性廃棄物だけが取り上げられましたが、本来なら、病院からは爆発性、腐食性の強い廃棄物が出るんですよ。
それらは結局、今までの産業廃棄物と同じく処理してもいいということになっていますが、厚生省も以前に比べてかなり前向きになってきていますから、早いうちにまた行政指導がされていくでしょう。
世界的には医療廃棄物が6~8種類に分けられて、それぞれ別々に処理されています。
日本もそうなっていきますよ。
そうなれば専門の炉の開発技術を持っているメーカーと、分別収集のノウハウを構築している搬送・回収業者などが強いでしょうね」
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