Thursday, January 1, 2026

こころの近代を引き受ける 夏目漱石と明治日本の精神的転換 明治後期

こころの近代を引き受ける 夏目漱石と明治日本の精神的転換 明治後期
夏目漱石の文学は、日本が近代国家として制度を整えた明治後期に、その内側で生じた精神的な不安と孤独を鋭く捉えた記録である。文明開化の成果として自由や個人主義が語られる一方、家制度や上下関係はなお強く残り、人々は自我を持つことを求められながら、その扱い方を学べないまま置かれていた。初期の吾輩は猫であるや坊っちゃんでは、近代的自我の空回りが諧謔として描かれるが、三四郎、それから、門へ進むにつれ、自由と社会的義務の衝突は深刻な内面の葛藤となる。ロンドン留学での精神的危機は、文明の普遍性よりも不安と分裂を直視させ、漱石を近代の内面を描く作家へと押し出した。晩年のこころでは、明治の終焉とともに、倫理的基盤を欠いた個人主義の行き着く先が示される。漱石の文学は、自由を
祝福も否定もせず、その重さと孤独を引き受ける姿勢そのものを問い続けた近代精神史の核心である。

No comments:

Post a Comment