批評という戦場 小林秀雄と近代日本の自己意識
小林秀雄の批評は、文学作品の評価にとどまらず、近代日本人が世界と自己をどう認識するかという思考の枠組みそのものを形づくった。1930年代、恐慌と社会不安のなかで合理主義や進歩史観が揺らぐ時代に、小林は理念や体系よりも、感じること、信じることといった根源的な認識に立ち返る姿勢を示した。彼は理論による説明を避け、作品の内部に入り込み、その必然性を生き直すように批評を行った。戦時下において国家や戦争を正面から批判することはなかったが、歴史を合理的に処理したり道徳的に裁断したりする態度を拒み、分からぬものを分からぬまま引き受ける姿勢を貫いた。敗戦後も語り口を変えず、民主主義や進歩の言葉に安易に乗らなかった点に、彼の特異な持続性がある。小林秀雄にとって批評とは、正解�
�示す行為ではなく、時代の只中で個人が一人で自己意識を試され続ける、終わりなき戦場だった。
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