言葉の遊戯と戦後の成熟 丸谷才一と日本文学の再編 一九六〇年代から一九九〇年代
丸谷才一の文学と批評は、戦後日本が反省と理念の時代を通過し、高度経済成長ののちに迎えた成熟と停滞の局面において、独特の位置を占めている。彼は戦争体験や政治的挫折を直接の主題とせず、それでも戦後文学の核心に深く関与し続けた作家である。
一九六〇年代、日本文学には戦争体験を背負う切実な文学と、消費社会の感覚が並存していた。丸谷はそのどちらにも同調せず、戦後文学が真面目さや倫理を唯一の基準としてきたことに違和感を示した。文学は告発だけでなく、言葉の技巧や形式の快楽を回復すべきだという感覚が彼の出発点にある。
英文学研究者としての素養を背景に、丸谷は日本文学を歴史的かつ国際的な文脈で捉え直した。引用やパロディ、文体操作によって、近代文学が切り捨ててきた遊びや知的享楽を復権させる。その態度は、戦後文学を一段引いた場所から再編する試みだった。
一九七〇年代以降、理念疲れの時代において、丸谷は言葉そのものの振る舞いを精密に点検し続けた。彼の文学は、戦後を編集し直すテクストとして扱い、叫ばずに批評的緊張を保ち続けた点に、その戦後的意義がある。
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