Friday, March 14, 2025

海洋資源を工業用途に活用可能な原料とするための技術開発が、各産業分野で芽を出しつつある。

海洋資源を工業用途に活用可能な原料とするための技術開発が、各産業分野で芽を出しつつある。
日本の限られた国土からバイオマス資源を自給するには、これまで以上に海洋資源が重要視されるわけだ。
日本は世界に誇る経済水域面積を抱えながら、多くの海洋資源を海外調達に頼っており、国際市況の煽りを受けている資源も多い。
石油代替、樹脂、非鉄金属など、工業原料として利用できるマテリアル用途の海洋資源に注目が集まっている。
●海水~高鵬する国際市況から見直しが必要海水から採取できる工業原料の代表格である塩は、世界で年間約2億トン生産され、その約3分の2が岩塩、残りが海塩から精製されている。
塩は、日本が100%国内調達可能な海洋資源のひとつだ。
食用塩は国内生産量年間約110万トンの需要に対し供給能力は130万トン以上であり、自給率は実質100%を超える。
一方、ゾーダ工業用は年間700万トン超を消費するため、全量をメキシコやオーストラリアから輸入している。
その塩も精製のための石炭価格や輸送費の裔騰が、製品価格を引っ張っている。
塩は重量のある割りに価格が低いため、輸送に係る燃料費がコストの大半を占める。
塩の国内増産が検討される余地は十分にある。
海水は主成分である酸素と水素のほか、マグネシウム、臭素、ヨウ素、リチウム、金、銀などを含み、その化学組成は微量ながら多岐にわたり、工業原料として将来的に見れば、海水からの成分抽出技術を活発化させる必要がある。
京都大学の古屋仲秀樹らは、海水など液体中に極微量含まれる金を吸着・回収できる素材を開発。
従来の溶媒抽出では数ppmの濃度が限界だったが、ナノサイズに加工したR型二酸化マンガンを使い、約1 ppbレベルの金の回収が可能になった。
吸着後は塩酸をかけて金のみを回収し、素材は繰り返し利用できる。同大学のベンチャーであるフォワード・サイエンス・ラポラトリー(京都市)が販売していく方針だ。
合金原料となるマグネシウムは、07年に入ってから3年振りに高値を更新している。
海洋資源で代替できる工業原料の昨今の価格高騰は、輸送や製造にかかわるコスト高に一因がある。
海水から工業原料を抽出する技術を確立することは、コスト変動要因の抑制に大きな意味がある。

●海藻~特性•利活用の幅広さで商品化進む。
日本の魚介類•海漢類の国内自給率は約50%。
そのほとんどが食用向けだが、工業原料に適用可能なバイオマス資源でもある。
たとえば海藻類は、古くは火薬原料としてカリウムが採取され、現代においては液晶テレビや太陽電池のフィルム原料に必要なヨウ素も極微量含まれる。
今後はコンブ類に含まれるアルギン酸が、新たな樹脂原料として期待できそうだ。
食品の増粘安定剤などに使用されているアルギン酸は2種類の糖が鎖状につながった物質で、デンプンなどと同じ多糖類に属する。
海藻の持つ独特のぬめり感を持つ繊維がそれで、乾燥コンブから重量比で30~60%を抽出でき、残演は飼料などに加工される。
東芝はアルギン酸を主原料とする生分解性の緩衝材を06年に開発した。
アルコールと反応させたアルギン酸の水溶液60%、生分解性を持つ可塑剤30%、さらに界面活性剤を加えたものだ。
従来のトウモロコシ由来の緩衝材では実現できなかった、発泡ポリウレタンと同様の性能を持ち、反発力に優れ、既存の生分解性緩衝材料が収縮する75度Cの温度に対しても、ほとんど変化しなかった。
使用済み品は水に溶かして原料を取り出せば再利用でき、再生品の性能も新品と変わらない。
01年中に実用化し、梱包向けに社内で試験的に使用する予定である。
寒天の特性を生かしてバイオプラスチック生産に新規参入する企業もある。
寒天メーカー大手の伊那食品工業(長野県伊那市)は、食品容器素材として藤沢工場(同市)で生産中の可食性フィルム「トンボのはね」のさらなる用途開拓を図る。
同フィルムは冷温水の可溶性、生分解性に加え、他の包装材と比べてもガスバリヤー性に優れているほか、ヒートシールによる製袋加工、写真・イラストなどの印刷ができ、機能面でもバイオプラスチックや他の汎用包装材に十分対抗できる。
同社は化粧品分野のほか、電子材料や日常雑貨類での活用を模索する。
また海藻類はエタノール原料としても有望だ。
東京海洋大学や三菱総合研究所、三菱重工業、三菱電機、清水建設など各分野・業界の連携による研究グループは、養殖した海藻からバイオエタノールを大量生産する構想を3月にまとめた。
日本海中央の浅瀬にある大和堆に1万km2の養殖場を設営し、そこに繁殖力の強い海藻のホンダワラを養殖。
収穫した海藻を船上に積んだバイオリアクターで糖に分解し、精製したエタノールをタンカーで陸地に運ぶ計画だ。
実現すれば、国内で消費されるガソリン(年間6000万キロリットル)の3分の1をカバーできるという。
海藻主成分のフコイダンの分解酵素は見つかっており、今後はアルギン酸の分解酵素の模索、プラント開発・コストなどの研究を総合的に進める。
日本の養殖コンプの主要生産地城は熊本や島根、愛媛など本州以南が多い。
国内で9割以上を生産する北海道産コンプは2年生だが、本州以南のコンプは1年で、南日本なら半年で収穫できるという生息条件もある。
現在は食用がほとんどだが、漁業権の関係も踏まえたうえで、非食用に必要な養殖量の拡大も検討する必要があろう。

●残澄・不用水産物~市場価値から見た用途開発が必要食用に適さない水産物や貝殻などの残湾類の有効利用法も着手されている。
年間20万~30万トン発生するホタテ貝殻の場合、焼成によるセラミックス化によって、充填材(フィラー)などの原料にする用途開拓が図られている。
青森県工業技術センターは通常の炭酸カルシウムに比べ高強度のPET複合樹脂パネルが製造できる複合樹脂フィラーを開発したほか、北海道共同石灰(北海道苫小牧市)は耐熱・アルカリ性に優れた合成樹脂用棒状フィラーを商品化している。
また日立化成工業は国土社(青森県平内町)などと共同で、廃FRPから取り出したガラス繊維に、樹脂と貝殻フィラーを混合して再びFRPを製造する技術を開発している。
既存原料よりも優れた特性を、より高い価値で利用できなければ、用途開発は進まない。
チャフローズコーポレーション(横浜市)のホタテ貝殻ビジネスは、同じ貝殻の焼成物でも、壁材(製品価格170万円/トン)から水虫治療薬(同1億5000万円)へと、原料の市場価値を格段に向上させた点が注目に値する。
薬効はどんな種類の貝殻の焼成物からも得られるわけではなく、「独特の生体メカニズムを備えるホタテだからこそ成功した」という。
海洋資源の採取には、生態系への影響を十分踏まえなければならないが、確立された利活用技術がなければ、日本の資源の国内調達は空論に終わってしまう。
海洋資源のマテリアル利用には、まず国際市況を俯瞰し、価値の高い原料のリサーチが必要だ。
そこからはケミカル分野との関わりによる技術革新が不可欠となる。

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