■2002年に閣議決定されたバイオマス・ニッポン戦略によって、日本各地でバイオマス(生物資源)産業の振興が本格化した。マテリアル利用やエネルギー利用などの事業化にあたり、日本の風土や文化にあったバイオマスを選択することが不可欠である。そこで、過剰に生産された米や間伐材など、日本で調達できるバイオマスの中でも大量に発生している未利用資源を原料に、バイオマス・プラスチックとして製品化しているアグリフューチャー・ジョウエツ(以下、AFJ)の取り組みに注目が集まっている。
●水田からの未利用資源を有効利用する意義。AFJはバイオマス・プラスチックの製造を目的に、同社が位置する新潟県上越市の有力企業などの出資により設立された。研究開発は、木質バイオマス研究の第一人者である京都大学の白石信夫教授などと産学連携を図ることで技術基盤を構築。さらに同市カリチウ5年度に策定した「バイオマスタウン構想」において、新たな地域産業の中軸を担うベンチャーとして事業展開している。AFJがバイオマス・プラスチック原料とするのは、主に地域で発生する間伐材、そして米だ。本来なら食用にすべき米を資源作物として利用するという考え方は、AFJの製品を採用したい企業などではイメージ面から抵抗を示すという。しかし、AFJ代表取締役社長を務める大野孝さんは、日本が稲作で培って�
�た文化や風習、米需給の現状を踏まえ、これに反論する。「バイオマス資源は、その国・地域に根差し、循環的に優位に発生してくる種類が一番重要であり、それを有効活用すべきだと思います。成長が早く大量に調達できるからと、日本の植生に適さないバイオマスを、無理に栽培するような発想は当社にはありません」。05年度の日本における米需要量(消費量)853万トンに対し、生産量は906万トンだった。これは生産調整によって約3分の1の水田を減反した結果であり、逆にGATTのウルグアイラウンド交渉によって外米であるミニマム・アクセス米を毎年約80万トン輸入する義務を負っている。その結果、国内で消費しきれない米が170万トンがストックされ、さらに今後、毎年20万トン増えていくという。「減反したうえ、生産し�
��がらわざわざ米を使わないがために、国は貯蔵に約3億円もの経費を費やしている。それなら、毎年発生する未利用の余剰米を循環利用できればいい」は野さん)というのがAFJの原料調達の考え方だ。AFJは現在、1997年に収穫された政府備蓄米500トンを原料に活用している。もし余剰米を原料とするプラスチック製品市場が形成されれば、製品の売上プラス30億円の経済効果が生まれるわけだ。
●特性・用途に応じた3種類の技術開発。AFJは現在、古米、間伐材を原料とする3つの種類の素材を製品化・開発中だ(図参照)。いずれも、従来の石油原料のプラスチックと同等の品質を持たせる技術である。まず「バイオマス混練」は、熱可塑性を持つポリオレフィンなどの高分子化合物やポリ乳酸などの生分解性樹脂と、木粉や米粉を調合。強度を引き出す木粉はエステル化を経てペレットで利用する。また流動性のある米粉は粉状のまま均一に分散させる。「バイオマス液化」は、バイオマスを化学修飾することなく液化する技術で、フェノール樹脂やポリウレタン樹脂などの熱硬化性樹脂を製造することができる。さらに「バイオマス可塑化」は、木質系バイオマスをオリゴエステル化などの簡易処理、もしくは処理せずにそ�
��まま熱可塑性プラスチックに変換させる技術だ。これらの技術が実現すれば、従来のバイオマス由来樹脂で実現不可能だった高剛性・高強度・高耐久性の汎用プラスチックが利用可能となる。AFJは、生産能力500kg/時の製造プラント(日本製鋼所製)を05年6月に約2億5000万円かけて設置。米や間伐材を原料とすることから「アグリウッド」と名づけられたバイオマス・プラスチックを、同年7月から生産開始した。現在、樹脂ペレットとして樹脂メーカーである日本ポリプロ(東京・港区)と商社の三菱商事パッケージング(同・中央区)などに納入している。米を原料とするアグリウッドは、米を粒状のまま使うことで、澱粉化する工程が省けるため、国内のポリプロピレンフィルム(200円/kg)より価格に抑えることができる」は野さ
ん)という。間伐材が中心のアグリウッドは、樹脂ペレットとして販売するほか、食器トレーとして成形し、上越市内の小学校などに導入されている。アグリウッドは、静電気の帯電が少ないため埃が付きにくい。また熱伝導性が低く、お湯の入った容器でも外側は熱くならないという、従来のプラスチック製品より優れた特長が強みだ。ぼJはさらに、もみ殻を強化繊維としてバイオマス・プラスチックに変換する技術開発にも着手している。これにより、水田から発生するほとんどのバイオマス資源を原料としてムダなく利用できることになる。同社の事業はまだ緒についたばかりだが、純国産のバイオマス・プラスチックの実現に向け意欲を燃やしている。
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