電子廃棄物の影—中国の環境負荷と闘い

電子廃棄物の影—中国の環境負荷と闘い

### 序章：急成長する電子廃棄物の影
21世紀初頭、中国は急速な経済発展と技術革新の波に乗り、世界最大の電子機器生産・消費国となった。しかし、この繁栄の裏側で、静かに積み重なる電子廃棄物（E-waste）の山が、環境と人々の健康に暗い影を落としていた。

---

### 第一章：2003年の危機—電子廃棄物の増加とその影響

2003年の中国では、電子廃棄物の増加が深刻な環境問題となっていた。特に携帯電話やコンピューターの廃棄量が急増し、適切な処理が行われないまま不法投棄されるケースが相次いだ。2003年時点で、中国の移動電話利用者数は約257000000件に達し、電子機器のライフサイクル短縮に伴い、毎年数百万トン規模の電子廃棄物が発生していた。

#### 広東省貴嶼鎮の危機
中国広東省の貴嶼鎮は、世界最大の電子廃棄物処理地として知られる。ここでは約150000人がリサイクル関連業務に従事し、電子機器の手作業による分解や金属回収が行われていた。しかし、多くの作業は適切な安全対策を伴わず、酸で基板を洗い金を抽出する工程では、有毒ガスが周囲に拡散し、土壌や水質の重金属汚染を引き起こしていた。

#### 貴州省のリサイクル事業
貴州省では、2002年に国内初の本格的な電子廃棄物処理施設が開設された。ここでは、使用済み電子機器から金、銀、銅などの貴金属を回収するプロジェクトがスタートした。しかし、廃棄物の急増に対して施設の処理能力が追いつかず、違法な投棄や回収業者による未許可の解体作業が横行。依然として環境負荷の低減には至っていなかった。

#### 電子廃棄物による健康被害
電子廃棄物には鉛、カドミウム、水銀、ポリ塩化ビフェニル（PCB）などの有害物質が含まれ、地下水や大気中に拡散することで人体への悪影響が懸念される。広東省で行われた調査では、電子廃棄物処理作業に関わる労働者の血中鉛濃度が通常の2～5倍に達していることが報告され、特に子供の健康被害が深刻な問題として指摘されていた。

---

### 第二章：2020年代の現在地—規制と新たな挑戦

2020年代に入り、中国の電子廃棄物問題はさらなる転換点を迎えた。世界最大の電子廃棄物生産国として、2020年には年間約10100000トンの電子廃棄物を排出。これは、世界全体の電子廃棄物の約70％が中国で処理されていることを示しており、環境への負荷は依然として深刻である。

#### 広東省貴嶼鎮の現在
かつて違法リサイクルの象徴とされた貴嶼鎮では、近年、政府による規制が強化され、違法なリサイクル業者が大幅に減少した。しかし、それでも依然として小規模業者が存在し、安全基準を満たさない手作業による金属回収が行われている。環境省の調査によると、2023年時点でも土壌中の鉛濃度が基準値の5倍を超える地域が確認されている。

#### 浙江省台州市の電子廃棄物リサイクル拠点
浙江省台州市は、中国の公式な電子廃棄物リサイクル拠点として整備が進んでいる。しかし、農業地帯の近隣にリサイクル工場が密集し、処理過程で発生する化学物質による水質汚染が問題視されている。特に、2022年には、地元住民が地下水汚染の訴訟を起こすなど、環境と産業のバランスが問われている。

#### 政府および企業の取り組み
中国政府は、「生産者延伸責任制度（EPR）」の徹底とともに、電子廃棄物の輸入禁止やリサイクル法の改正を実施。また、ファーウェイやレノボといった大手企業も、持続可能な製品設計やリサイクルシステムの構築に積極的に取り組んでいる。2023年には、レノボが使用済みノートパソコンの回収・再生プロジェクトを本格化させ、リサイクル率の向上に貢献した。

---

### 関連情報まとめ

- **電子廃棄物の増加**
- **2003年**：年間数百万トンの電子廃棄物が発生
- **2020年**：年間約10100000トン（世界全体の70％が中国で処理）

- **主要な影響を受ける地域**
- **広東省貴嶼鎮**：世界最大の電子廃棄物処理地、土壌鉛濃度が基準値の5倍超
- **浙江省台州市**：公式なリサイクル拠点、地下水汚染問題が顕在化
- **貴州省**：国内初の電子廃棄物処理施設が2002年に開設

- **環境および健康への影響**
- **電子廃棄物に含まれる有害物質**：鉛、カドミウム、水銀、ポリ塩化ビフェニル（PCB）
- **広東省での調査**：血中鉛濃度が通常の2～5倍に達する労働者が多数

- **政府および企業の取り組み**
- **生産者延伸責任制度（EPR）の導入**
- **電子廃棄物の輸入禁止措置**
- **レノボの使用済みノートPC回収プロジェクト（2023年）**