Friday, March 7, 2025

「黒潮に沈む楽園の涙」—モーリシャス沖における「WAKASHIO」座礁事故と国際的な賠償制度の課題 - 2020年7月

「黒潮に沈む楽園の涙」—モーリシャス沖における「WAKASHIO」座礁事故と国際的な賠償制度の課題 - 2020年7月

2020年7月25日、モーリシャス沖の澄んだ青い海が、一夜にして黒い重油に染まる悲劇に見舞われました。パナマ船籍の大型貨物船「WAKASHIO」が座礁し、約1000トンの燃料油が流出する事故が発生したのです。この事故は、同国の生態系や観光業に壊滅的な影響を及ぼしただけでなく、国際的な賠償制度の限界を露呈させました。

### 事故の概要

「WAKASHIO」は中国からブラジルへ向かう途中、モーリシャスのサンゴ礁に衝突しました。貨物は積載していませんでしたが、約3894トンの燃料油、207トンの軽油、90トンの潤滑油を搭載していました。8月11日までに最大2000トンの燃料が流出し、環境被害は甚大なものとなりました。その数日後、波と風の影響で船体が二つに分断され、残存燃料の回収も困難を極めました。

### 国際的な賠償制度の課題

今回の事故では、貨物船による油流出事故に対する国際的な賠償制度の不備が浮き彫りとなりました。石油タンカーの場合、国際油濁補償基金(IOPCF)が設けられており、多額の補償が可能です。しかし、貨物船による流出事故にはバンカー条約が適用され、賠償額の上限は約6517万ドル(約68億円)とされています。一方で、IOPCFが適用される場合、補償額はその4倍の約2億8600万ドル(約302億円)に達します。

この制度の差により、貨物船による事故の被害者は、タンカー事故に比べて十分な補償を受けることが難しい現状があります。モーリシャス政府は船主や傭船者に対する賠償請求を進めていますが、現行の国際条約では船舶所有者の責任が制限されているため、被害補償が十分に行き届かない可能性があります。

### 責任の所在と今後の課題

「WAKASHIO」の事故では、船主である長鋪汽船や傭船者である商船三井の責任が問われています。しかし、現行の制度では、船舶所有者が負担する賠償額には制限が設けられており、環境回復や地元住民への補償には不十分な状況です。今回の事故を契機に、貨物船による油流出事故への補償枠組みの強化や、新たな国際基金の設立が求められています。

### 関連情報

- モーリシャス重油流出事故と国際的な賠償制度
2020年7月、モーリシャス沖で日本の大型貨物船「WAKASHIO」が座礁し、燃料油が流出する事故が発生しました。貨物船による油流出事故に対する国際的な賠償制度の不備が指摘されています。

- モーリシャス油流出事故の法的側面
国際法の枠組みや損害賠償・補償の観点からの分析が行われています。

- 水質事故の実例(油流出防止対策)
飲食料品小売業の駐車場でトラックが燃料タンクに亀裂を生じ、軽油が流出した事例。原因と再発防止策が詳述されています。

- 事業者向けの油流出事故対応マニュアル(広島県)
河川や地下水の汚染を防ぐための緊急措置や関係機関への連絡方法が詳細に記載されています。

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