京マチ子 ― 国際派女優が映した昭和の光と影（1924～2019）

京マチ子 ― 国際派女優が映した昭和の光と影（1924～2019）

京マチ子は戦後日本映画の黄金期を彩った大女優であり、その容姿と演技力で国内外に強烈な印象を残した。宝塚出身ではなく踊り子から映画界に入り、豊満な体躯と切れ長の眼差し、妖艶な唇という個性を武器にスターの地位を築いた。1950年、黒澤明監督「羅生門」でヴェネツィア国際映画祭金獅子賞を受賞、日本映画の国際的評価を高めた立役者となる。その後も溝口健二「赤線地帯」、川島雄三「夜の蝶」、吉村公三郎「偽れる盛装」などで男を翻弄する魔性の女を演じ、戦後のモラルの揺らぎを象徴した。一方、小津安二郎「浮草」や市川崑「婚期」では耐える妻や寛容な女性を好演し、観客に深い共感を呼んだ。日本映画界が海外進出を急ぐ中、原節子が清楚な理想像で、また高峰秀子が庶民的知性で時代を表したのに対�
�、京は肉感的で生々しい人間像を提示し、国際的観客にも強い印象を残した。内面と役柄の乖離に悩んだと伝えられるが、その葛藤さえも演技に昇華し、日本映画を娯楽から芸術へと押し上げた功績は大きい。戦後日本の国際化を象徴する存在として、京マチ子は今なお映画史に燦然と輝いている。