### サイバー資金洗浄の舞台 ― 北朝鮮とVIPカジノの影 2015-2016年
2016年、バングラデシュ中央銀行から奪われた資金は、最終的にフィリピンの「ソレア・リゾート&カジノ」に持ち込まれた。中国語を話す6人の男たちは、まるで勤務表に従うように毎朝同じ時間に現れ、数時間バカラに没頭し、勝敗に動じることなく静かに賭け続けた。彼らの行動は娯楽というより「作業」に近く、現金をチップへ、そして再び資金へ戻す過程そのものが、マネーロンダリングの第二段階であった【7†北朝鮮 らざるす2R.pdf†】。
この背景にあったのは、北朝鮮が直面していた厳しい国際環境である。2010年代半ば、国連安保理は核実験や弾道ミサイル発射に対する制裁を次々と強化し、石炭・鉄鉱石といった主要輸出品は締め付けられ、海外送金の経路も封鎖されていった。北朝鮮にとって外貨獲得は国家存続の死活問題であり、従来の密輸や外交特権を利用した資金調達だけでは足りなくなっていた。そこで浮上したのが、サイバー空間を利用した新たな収入源である。ラザルスと呼ばれるハッカー部隊は、国家の指揮下に置かれ、政府に必要な外貨を直接獲得する手段として動員されていた。
北朝鮮にとって「カジノ」という場は、制裁網をかいくぐる格好の仕組みだった。フィリピンでは当時、カジノ業界が急拡大し、顧客の身元確認や資金の出所追跡が不十分であった。ここに流し込まれた盗難資金は、プレイを通じて「合法的なチップ」となり、再び換金されることで正規資金に姿を変えた。北朝鮮の外貨獲得戦略は、サイバー攻撃という最先端技術と、カジノという古典的な「抜け道」を結びつけることで成立していたのである。
この異様な光景は、制裁に追い詰められた北朝鮮が、いかに国家ぐるみでサイバー犯罪を制度化し、外貨を得ていたかを象徴している。彼らの冷徹なプレイは単なる博打ではなく、国家経済を支える「任務」だった。マニラ湾岸の煌びやかなリゾートカジノは、一国の制裁回避とサイバー戦略の最前線となっていたのである。
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