Thursday, March 27, 2025

潮のゆらぎとサバの行方―和歌山・紀南の海の変奏(1993年〜2005年)

潮のゆらぎとサバの行方―和歌山・紀南の海の変奏(1993年〜2005年)

和歌山県紀南地方の沿岸では海のぬくもりが漁の風景を静かに塗り替えていた。かつてこの地の主役だったマサバは姿を潜め代わって網にかかるのはゴマサバ。1993年には15度台だった水深100メートルの水温は2002年には17度台に上昇し魚の世界に変化をもたらした。2003年にはゴマサバがマサバを漁獲量で上回り2005年には漁獲の8割がゴマサバとなった。

だがこの交代劇は漁師たちの暮らしを苦しめた。市場価値の低いゴマサバではかつての収益は得られず温暖化という見えない力が生活の手応えを奪っていった。これは単なる魚種の変化ではなく気候変動が地域社会に及ぼす波紋の一端である。

同様の現象は日本海西部や東シナ海にも及び広域にわたる環境の変調が浮き彫りとなっている。海はかつてと同じ姿を保ちながらその内実を少しずつ変えていく。人と海の関係が再び問われる時代がいま静かに始まっている。

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