黒潮の温もりが変えた漁場―和歌山・紀南のサバ物語(1993年〜2005年)
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和歌山県紀南地方の沿岸で海水温のわずかな上昇が長年の漁業の風景を静かに変えている。かつてこの地の漁港に並んでいたのは脂ののったマサバだった。しかし近年その姿が減り代わってゴマサバが網にかかるようになった。和歌山県水産試験場の調査では1993年まで水深100mで15度台だった水温が1995年には16度台2002年以降は17度台へと上昇。わずか数度の変化がサバたちの海を変えた。
その結果2003年にはゴマサバがマサバを漁獲量で上回り2005年には和歌山県で揚がるサバの約8割を占めるようになった。しかしこの転換は漁師たちにとって喜ばしいものではない。ゴマサバは市場での評価が低く価格はマサバの半分程度。かつて誇りを持って送り出した漁の成果が今は収益減という重みとなってのしかかる。
この物語は地球温暖化という遠い話が海とともに生きる人々の生活にどのように影を落とすかを示している。わずか数度の海水温の変化が生態系のバランスを揺るがし経済のありようさえも変えてしまう。和歌山の海は今静かに語りかけている——「海が変われば暮らしも変わる」と。これからも変わりゆく海にどう寄り添っていくか科学と経験そして忍耐が問われている。
和歌山だけではなく同様の現象は他地域にも広がっている。1970年代から日本海西部や東シナ海でもゴマサバの漁獲量が増加傾向にあり2011年には年間約5万トンに達した。対照的にマサバの漁獲量は1990年代初めに激減しその後も低迷。海水温の上昇や回遊経路の変化がこの逆転現象に拍車をかけているとみられる。
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【関連情報】
- 水産庁・水産研究・教育機構:サバ類資源評価報告書(2023年)
- 同機構:マサバ資源報告書(2024年)
- 和歌山県水産試験場:紀南地方の漁業調査報告(和歌山県公式サイト)
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