Sunday, March 30, 2025

鼓動の交差点——仙波清彦とポンタが刻んだ音楽の四半世紀(1970年代〜2000年代)

鼓動の交差点——仙波清彦とポンタが刻んだ音楽の四半世紀(1970年代〜2000年代)

1. 幼少期と伝統音楽の継承
仙波清彦(せんば・きよひこ)は、邦楽囃子方「仙波流」宗家の仙波宏祐を父に持ち、3歳から鼓の稽古を始めた。江戸時代から続く歌舞伎や能の舞台で用いられる小鼓や太鼓の技法を受け継ぎ、10歳で歌舞伎の囃子方として舞台デビューを果たす。

当時(1960年代)日本は高度経済成長のただ中にあり、都市化・西洋化が進行。テレビとレコードが庶民文化を席巻する一方で、伝統芸能は「古めかしいもの」と見なされる傾向にあった。仙波はそうした潮流に逆らうかのように、伝統芸を若き身で吸収し、後年それを現代の音楽と融合させる土台を築いた。

2. 東京芸大と現代音楽の交差点(1970年代)
東京藝術大学音楽学部邦楽科で学び、在学中には安宅賞を受賞。精緻な邦楽の技法と並行して、西洋音楽、ジャズ、即興音楽への興味も育んでいく。

1978年にはフュージョンバンド「THE SQUARE(現・T-SQUARE)」に加入。当時の日本ではクロスオーバー/フュージョンの潮流が巻き起こっており、渡辺貞夫や高中正義、カシオペアらが時代をリードしていた。仙波はその中で、邦楽打楽器の感性を持ち込むという独自のアプローチで存在感を示した。

3. 村上"ポンタ"秀一との邂逅
仙波清彦と村上"ポンタ"秀一は、音楽界における打楽器の巨星同士として知られている。ジャズ・フュージョン界の寵児であり「日本一多忙なドラマー」とも称されたポンタと、歌舞伎育ちの邦楽囃子方である仙波——まったく異なる経歴を持ちながら、二人は録音現場やセッションで幾度となく交わった。

ある録音現場でのエピソードでは、二人がほぼ打ち合わせなく演奏を始めたにもかかわらず、互いのリズムが吸い寄せられるように合致。仙波はその瞬間を「脳内の奥でリズムが溶け合った」と語る。ポンタも仙波の自由奔放なパーカッションに「笑えるほど凄い」と感嘆していたという。

型と即興、譜面と感性、伝統と前衛——二人の出会いは、それぞれの音楽人生をさらに広げる刺激的な火花だった。

4. 「はにわオールスターズ」と音楽のるつぼ(1980年代)
1982年には、自らのバンド「はにわオールスターズ」を結成。矢野顕子、坂田明、三沢またろうらを含む多国籍的な音楽家集団で、ジャズ、ロック、民俗音楽、邦楽を融合したサウンドを展開した。

1980年代の日本はテクノとワールドミュージックが台頭し、YMOをはじめとする実験的音楽が注目を集めていた。「はにわ」の音は、その先端のさらに横にある"雑多な混沌"として受け取られ、カルト的な支持を集めた。

5. アジアへの旋回と再融合(1990〜2000年代)
1998年からはアジアン・ファンタジー・オーケストラのリーダーとして、タイ・ベトナム・韓国などアジア諸国を巡るツアーを実施。各国の伝統音楽家と共演し、演奏を通じて異文化間の響きを探った。

2000年には打楽器アヴァンユニット「SEMBA SONIC SPEAR」を結成。茶碗、バケツ、古タイヤなども用いた異色のパフォーマンスは、「音楽というより音の祝祭」とも評された。

6. 「仙波清彦とカルガモーズ」現在に至る活動
現在は23名もの打楽器奏者を率いる「仙波清彦とカルガモーズ」で活動中。音楽的実験をライブの祝祭として昇華しながら、日用品から音を引き出す独創的な感覚は、多くのミュージシャンに影響を与えている。

また、HOT MUSIC SCHOOLなどで若手パーカッショニストの指導にもあたっており、技術だけでなく「音を遊ぶ心」を伝え続けている。

7. 代表曲の解説
・シシリアン・ルンバ(THE SQUARE時代):
サルサやラテンリズムに和楽器の打音が混ざり合う、仙波流ハイブリッドの原点。洋楽器の中で小鼓や太鼓が主張する珍しい編成で、後の「はにわ」の原型ともいえる。

・はにわ盆踊り(はにわオールスターズ):
伝統的な民謡フレーズと現代的なシンセサイザーの組み合わせが絶妙。仙波は「変わらぬ形でなく、踊り継がれる形に再発酵させた」と語る。観客参加型ライブの定番曲でもある。

・打波鼓(だはこ)(カルガモーズ):
音の奔流と静寂が交互に襲いかかる、リズム構成の妙が光る名曲。水の音や風の音すら打楽器に取り込もうとする仙波の精神が体現された作品。舞台照明と完全に連動した演出も話題となった。

時代背景との関係
仙波清彦の歩みは、戦後から21世紀初頭までの日本文化の変遷と深く関わっている。戦後の伝統芸能軽視、1970〜80年代のフュージョン/ワールドミュージックの隆盛、90年代以降のアジア文化との再接近、そして2000年代のボーダーレス化。

そのすべてのフェーズにおいて、彼は「継承」ではなく「変奏」を選んできた。伝統の打楽器を、西洋音楽や即興、電子音と組み合わせることで、時代の隙間に新たな表現の場を生み出した。

そして、村上"ポンタ"秀一との邂逅は、その変奏をさらに加速させた出来事のひとつである。彼らが生み出した「交差点のリズム」は、今なお多くの音楽家たちの背中を押している。

関連情報(リンク省略)
HOT MUSIC SCHOOL(仙波清彦プロフィール)
X(旧Twitter)仙波清彦公式アカウント
「はにわオールスターズ」「SEMBA SONIC SPEAR」「カルガモーズ」関連映像・音源
村上"ポンタ"秀一との共演ライブ/スタジオ記録(各種雑誌・音源にて)

No comments:

Post a Comment