自然の均衡が崩れるとき 生態系破壊という次の危機 20世紀終盤から21世紀中葉
戦後の世界は、飢饉や疫病、戦争といった直接的な脅威が緩和されつつある一方で、もう一つの深刻な危機が静かに進行していた。それが生態系破壊だ。人類は科学技術の進歩と経済成長の掛け声の下、森林を切り開き、土地を整備し、河川や海洋を利用してきたが、こうした人間活動が自然の均衡を崩す根本原因となっている。地球上の土地の約75パーセントが人間の手によって変容し、湿地の約85パーセントが失われたとされる。これらの生態系は、水や空気の浄化、炭素の固定、洪水制御などの重要な機能を担っていたが、その多くが危機的状況にある。
気候変動は、生態系破壊を加速させる主要因の一つである。気温上昇や極端気象は、種の分布や相互作用を変え、生息地を分断し、多数の種を絶滅の危機へ追い込む。現在、数百万種が絶滅の瀬戸際にあると推計され、過去の地質時代と比べても極めて速い速度で生物多様性が失われている。
人間が自然を操作し、管理するという近代的価値観は、生態系を道具として扱う発想を強化してきた。しかしこの発想は裏目に出ている。生態系の劣化は、気候変動の進行や感染症の発生頻度の上昇など、複数の危機を同時に引き起こす。生物多様性の損失は、生態系のレジリエンス、すなわち変化に耐える力を低下させ、機能崩壊を招きやすくする。
かつて戦争は最大の環境破壊と批判されたが、21世紀に入ると、農業拡大、都市化、資源採掘による土壌、水、空気への恒常的な負荷が、より深刻な影響を与えていることが明らかになった。戦争による破壊は局所的であるのに対し、人間の持続的活動は、生態系全体に長期的なストレスを与え続ける。
今日の危機は単一要因ではなく、気候変動、森林伐採、汚染、過剰開発といった圧力が複合的に重なった結果である。科学技術はこの危機を可視化し理解する助けにはなっているが、同時に人間の拡張的活動が危機を加速させているという矛盾も抱える。生態系破壊は、もはや環境問題にとどまらず、人類の存続基盤そのものを問う、時代の核心的課題となっている。
No comments:
Post a Comment