戦後の言葉を疑う 江藤淳と戦後精神史の分岐点 一九五〇年代から一九七〇年代 一九五〇年代から一九七〇年代
江藤淳は、戦後日本文学の内部から、戦後そのものの前提となった言葉や価値を根底から問い直した批評家である。敗戦後、日本は民主主義や平和、進歩といった理念を掲げて再出発したが、それらの言葉は占領期の検閲と自己検閲を通じて固定化され、やがて疑われない正しさとして流通するようになった。江藤は、戦後文学が反戦や民主主義を掲げながら、戦前との連続と断絶を十分に総括していない点に強い違和感を抱いた。安保闘争と高度経済成長が同時進行した一九六〇年代、進歩的言説が空気のように共有される状況そのものを批評の対象とし、倫理的優位に立つことで戦争責任の問いが形式化してしまう逆説を指摘した。戦前を免罪するのではなく、過去を引き受けず理念だけを借用する戦後精神の軽さを問題化した点
に、江藤の批評の核心がある。その問いは、戦後が遠景化した現在においても、思考の自由を守るための緊張としてなお有効である。
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