中川宣治（なかがわ・せんじ）は1980年代の日本最大の暴力団抗争である「山一抗争」において反主流派である一和会の幹部として中心的な役割を果たした人物である。穏健で冷静な性格として知られ、激化する抗争の中で組織内の調整役としても重責を担ったが、最後は信号待ちという日常の中で銃弾に倒れ、その生涯を閉じた。

中川宣治（なかがわ・せんじ）は1980年代の日本最大の暴力団抗争である「山一抗争」において反主流派である一和会の幹部として中心的な役割を果たした人物である。穏健で冷静な性格として知られ、激化する抗争の中で組織内の調整役としても重責を担ったが、最後は信号待ちという日常の中で銃弾に倒れ、その生涯を閉じた。

山一抗争は1981年に山口組三代目・田岡一雄が死去したことに端を発する。後継に竹中正久が就任したことに反発した山本広が主導し、1984年（昭和五十九年）に山口組を離脱して「一和会」を結成。これにより山口組（竹中派）と一和会（山広派）との対立が全国規模に拡大した。抗争では銃撃や爆破、殺人事件が相次ぎ、死傷者は100人を超えたとされる。中川宣治は一和会幹部としてこの抗争の中枢に関わり、作戦や防衛の方針、さらには内外の折衝にも参加した。理性的で無益な流血を避ける立場だったが、必要とあらば前線にも赴いたといわれている。

1985年1月26日、大阪・新阪急ホテルで開催された一和会幹部会議が、山口組側ヒットマンによる襲撃を受けた。これが「一・二六事件」として知られるものである。襲撃者たちはスーツ姿で会場に入り込み、自動小銃で一斉に銃撃を開始し、一和会幹部2人が死亡、数名が重傷を負った。中川もこの会議に出席しており、銃弾を受けたとされるが、このときは命を取り留めた。混乱の中で彼が「伏せろ！」と叫び、部下をかばったという証言も残されており、冷静な判断力が垣間見える場面だった。だがこの事件を境に、抗争はさらに過激さを増すことになる。

そして1986年（昭和六十一年）5月21日、中川宣治は大阪府内を車で移動中、交差点で信号待ちをしていた。その瞬間、山口組系竹中組のヒットマンが近づき、至近距離から発砲。胸部や首を撃たれ、中川はその場で即死した。犯行は事前に行動パターンを把握したうえで実行された、計画的な暗殺だった。市街地の交差点という日常の風景の中での凶行は、世間に大きな衝撃を与えた。

中川の死は一和会にとって極めて大きな打撃だった。彼のような調整型・理性型の幹部が消えたことで、組織内では強硬派の声が一気に台頭し、抗争はさらに泥沼化していった。彼の葬儀は警察の厳重な警備の下で行われ、多数の関係者が参列した。生前、中川は「抗争は組織の誇りではなく、無関係な人々を傷つける」と語っていたと伝えられており、その姿勢は今なお一和会関係者の間で語り継がれている。

中川宣治は、山一抗争という暴力団史上最大の抗争のただ中で、最後まで組織の均衡を保とうと努力した一和会の要人である。だがその理性も暴力の論理には勝てず、最期は信号待ちという日常の静けさの中で銃弾に倒れた。彼の死は、山口組と一和会の争いの深さと、暴力がいかにして理性と命を奪っていくかを象徴する事件であり、また暴力団抗争とその終息を巡る日本社会の課題を強く印象付けたものであった。