Saturday, April 12, 2025

崩された壁と埋められた記憶 建設廃棄物と不法投棄の日本地図 1995年から2025年

崩された壁と埋められた記憶 建設廃棄物と不法投棄の日本地図 1995年から2025年

建設系廃棄物は、今もなお静かに日本の土を覆い尽くしている。年間約7000万トン。これは全国の産業廃棄物の約2割を占めている。都市の再開発やインフラの老朽化により、老いた建物が姿を消すたびに、その残骸が新たな処理問題として積み重なっていく。コンクリート、アスファルト、木くず、そして分類の難しい混合廃棄物。それらが、全国の工事現場から日々送り出されている。

再資源化率は高い。とくにコンクリートやアスファルトなど、再利用の明確なルートを持つものは、90パーセント以上の再資源化が行われている。しかし混合廃棄物に関しては、分別が不十分なまま処理場に送られ、埋め立て処分や不適正な処理を余儀なくされることが少なくない。これに対応するため、2022年に改正された建設リサイクル法が、2024年から本格施行された。元請け業者の責任強化、事前分別の義務付け、そして電子マニフェストの普及が柱となる。

都市部、たとえば東京都や神奈川県では、再開発によって大量の建設廃棄物が発生しているが、置き場が少なく、処理場への運搬に多くのコストと時間がかかっている。騒音、粉じんなどの苦情も住民から相次いで寄せられ、行政は建設副産物の情報交換システムを導入し、発生と受入をつなげる努力を続けている。

一方、北関東や東北などの郊外では、静かな山林や使われなくなった土地が、都市からの廃棄物流入によって汚される現象が目立つ。栃木県那須塩原市では、混合廃棄物を1万立方メートル以上も不法に埋めた事件が発覚し、地元住民の怒りが爆発した。埋設されたのは目立たない丘陵地。都市部の業者がコスト削減を図るために山林へと捨てた、都合の良い「見えない場所」だった。

大阪や愛知、福岡などの地方大都市では、建設需要の高さに見合った処理体制が整えられているが、その一方で「見せかけのリサイクル」や虚偽の処理報告も散見される。大阪府東大阪市では、木くずと称して家庭ごみを混入した業者が摘発された。リサイクル率の見かけを保つための偽装工作だった。

北海道のような寒冷地では、雪に閉ざされた期間に解体が困難となり、夏に集中して処理を行うため、廃棄物が一時的に山積みとなる例がある。石狩市では、アスベスト含有建材が防護もされないまま野外に放置され、近隣住民からの通報によってようやく対処された。風に舞う繊維は、目に見えぬ脅威として人々の不安を煽った。

記憶に残る不法投棄事件のひとつが、千葉県袖ケ浦市で発生したものである。1995年から2000年にかけて、旧ゴルフ場跡地に15万立方メートルもの廃棄物が次々と投棄された。アスファルト、家具、家庭ごみ、解体材が混在し、地下水の汚染も懸念された。行政命令と住民訴訟が相次ぎ、土に埋められた廃棄物はやがて「公害の象徴」として語られるようになった。

また、栃木県鹿沼市では、2006年から2012年にかけて、盛土工事と称して建設残土や廃材が山林に不法投棄された事件が発生した。4万トンを超える廃棄物が森の中に埋められ、農地や水源への影響が心配された。結果的に、土地の所有者と元請業者には損害賠償が命じられ、司法の場で「見て見ぬふり」の責任が問われた。

2018年、熊本県合志市では、農地に混合廃棄物を埋めるという事件が起きた。地元農家から借りた土地を資材置き場と偽り、解体業者が次々と廃棄物を持ち込んでいた。農地は二度と作物を育てることができなくなり、業者は廃棄物処理法違反で摘発された。

このような事態に対応するため、全国の自治体では電子マニフェスト制度を推進し、処理の流れを可視化する努力を続けている。加えて、千葉、茨城、兵庫などではドローン監視や通報アプリなどの新技術を用いて、不法投棄の早期発見に取り組んでいる。そして未来に向けては、解体されることを前提とした設計「DfD(分解のための設計)」が一部の建設現場で導入され始めている。物を壊すのではなく、次に生かすために解く。その思想が、かつては忘れられていた「廃棄の倫理」に新たな光を当てつつある。

【関連情報】
建設リサイクル法(2002年施行/2022年改正)
電子マニフェスト制度(JWNET)普及率:2024年時点で約75%
栃木県鹿沼市 盛土条例(2014年制定)
東京都 建設副産物情報交換システム(2005年導入)
千葉県 袖ケ浦市 産廃不法投棄監視条例(2002年)
アスベスト廃棄物処理基準(環境省告示)
DfD(Design for Disassembly)建築設計事例:横浜市環境未来都市プロジェクト(2023年)

No comments:

Post a Comment