Sunday, April 13, 2025

風の名を持つ女――中島みゆきの軌跡(1975年〜現在)

風の名を持つ女――中島みゆきの軌跡(1975年〜現在)

1975年、「アザミ嬢のララバイ」で中島みゆきは、音もなく風のように歌の世界に姿を現した。その声はどこか影を帯び、言葉は剃刀のように鋭く、それでいてひどくやさしかった。『時代』は静かに時の輪廻を歌い、『わかれうた』は別れに沈む女の背に凛とした美しさを宿らせた。『悪女』では、愛の断絶を選ぶ者の悲しみと強さを描き出し、1994年の『空と君のあいだに』では、誰にも守られない者への共感が祈りとなって響いた。やがて『地上の星』では、名もなき人々の努力と夢に光を当て、歌は賛美と覚悟を帯びて天に届いた。

言葉が生きている。そう思わせる歌を、彼女は幾度も生み出した。1989年から続く"夜会"では、舞台上にその物語世界を可視化し、観る者を静かに圧倒する。吉田拓郎は「歌の神に選ばれた」と讃え、松任谷由実は「祈りがある」と語る。椎名林檎や是枝裕和ら次代の表現者たちも、彼女の作品に畏敬を隠さない。中島みゆきは、紅白にもバラエティにも顔を見せないが、その歌は、時に道を失った人間の魂に寄り添い続ける。風は目に見えぬが、確かに頬を撫でてゆく。それと同じように、彼女の歌は人の心の奥で生き続けている。

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