干ばつの国、洪水の民 1995年から2025年までの北朝鮮・食糧不安の記憶と現在
北朝鮮の食糧事情は、長年にわたり多くの課題に直面してきた。1990年代半ばには、自然災害と経済的困難が重なり、大規模な飢饉が発生。推定で数十万から数百万人が犠牲となった。この危機に対応するため、1995年以降、世界食糧計画(WFP)を含む国際社会が支援を開始した。
特に1995年の夏、北朝鮮全土は壊滅的な集中豪雨に見舞われた。7月から8月にかけて降り続いた記録的な大雨により、農地の約15%が水没し、主食であるコメやトウモロコシの収穫量が激減。すでに逼迫していた食糧事情はさらに悪化し、深刻な飢饉へと発展した。洪水は農地だけでなく、住居やインフラにも壊滅的な被害を与え、数百万人規模の被災者が発生した。この災害は、山林の乱伐や排水設備の脆弱さといった構造的な問題も浮き彫りにした。
この大災害を契機に、WFPは北朝鮮への食糧支援を本格化。2023年までに、総額6億3500万ドル相当の食糧が提供された。
近年、北朝鮮の食糧生産は一時的に回復し、2013年には主食の自給自足に近づいたとされる。しかし、栄養バランスの面では依然として不十分であり、とくにタンパク質の摂取が課題とされている。さらに、気候変動に伴う異常気象や洪水が頻発し、農業生産に深刻な打撃を与えている。2024年にも洪水や害虫被害が報告され、食糧不足の懸念が強まった。それでも北朝鮮政府は外国からの援助を最小限にとどめ、自給自足を重視する政策を堅持している。
そして2025年4月現在も、北朝鮮の食糧事情は厳しいままである。2024年初頭には、金正恩総書記が「食糧供給の不十分さは深刻な政治問題」と認め、農業改革と経済発展の必要性を訴えた。同年末には、新たな魚類養殖施設の完成を祝し、漁業振興と地方開発にも注力する姿勢を見せている。
また、ロシアとの関係強化により、同国から約2000トンの小麦粉やトウモロコシが供給されるなど、一定の支援が行われている。しかし専門家は、それだけでは根本的な解決には至らないと指摘している。農業や漁業の近代化を進めてはいるものの、依然として国民の多くは慢性的な食糧不足に直面している。
関連情報
1995年の集中豪雨:農地の15%が水没し、飢饉が深刻化。
WFPの支援:1995年から2023年までに、総額6億3500万ドル相当の食糧を供給。
2024年の状況:洪水と害虫の被害が続き、タンパク質不足が深刻。
2025年の現状:地方開発と漁業振興を推進。ロシアからの食糧支援も一部実施。
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